米重 あと加藤勝信さんが第一回目の投票で、議員票の数が推薦人の数を下回るという結果に……。出陣式のカツカレーを食い逃げしたのは誰だとすぐ話題になっています。

山本 すでに何人か「裏切り者」の名前が囁かれています。

 逆に良かった人で言えば、総裁選前に米重さんとこの対談で、林芳正さんが党員票をけっこう取りそうだという話をしましたが、そういう結果になりましたね。党員票が27。幹事長である茂木氏の倍以上です。

米重 支持基盤の強固さと政策面の安定性が改めて評価された結果だったのではないでしょうか。

 小林鷹之さんの結果はどうですか。

山本 党員票19、議員票41で計60票は見事な結果です。

米重 これだけ総裁選で名前と顔を売り、一定の結果も出したということは、もしかしたら小林さんは石破さん以外では一番得をした候補と言えるかもしれないですね。

山本 総裁選が終わった直後、小林さん陣営の議員たちの顔は充実感に満ちていた。今後、小林グループが出来てもおかしくないようなムードでした。

 あと上川陽子さんですが、初めての総裁選で健闘したと言えると思います。

石破氏が真っ先に取り組むべきは「市場との対話」

米重 石破さんに話を戻すと、今回、陣営の選挙戦略がしっかり機能していたなと思うのは、最終盤に経済政策の追加発表をしたことです。内容はほとんど「岸田政権の踏襲」でした。あれは旧岸田派の議員に対するメッセージなんだろうなと感じました。「コストカット型経済からの転換」とか“デジタル田園都市”によく似た「デジタル地方文化都市」とか、岸田政権で出てきたようなキーワードが散りばめられていた。

 ここで、自分の右寄りの支持層にファンサービスすることに最後まで終始している高市さんと、逆に岸田さんやその周囲の議員たちに対してありとあらゆる手を使って安心感、シンパシーを感じてもらおうとする石破さんの「努力の差」があったような気がしますね。

山本 ただ石破さんの課題は経済と言われていて、冒頭でも話が出たように経済界やマーケットは「石破首相」に警戒しています。

米重 そうなると石破次期首相の最初の重要なミッションは、市場との対話ですね。少なくとも石破さんは、アベノミクスを終了させて、利上げや緊縮財政といった方向に舵を切ろうとしている人物、というイメージを持たれている。そこに対する安心感を市場に与えなければ、経済問題はずっと喉元に刺さった骨になると思います。

 岸田首相も就任当初は「新しい資本主義」というキーワードでアベノミクスと決別するかのような方向性を打ち出していましたが、結局は市場に衝撃を与えるような方向転換は控えてきました。そういう現実路線も必要になると思います。