
(平山 賢一:麗澤大学経済学部教授/東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト)
失敗に終わった「昭和の証券民主化」を繰り返してはならない
日本銀行が2024年3月に異次元緩和の正常化に着手しはじめ、今春で1年が経過した。改めて世間を見回すと、金利のある世界に復帰し、多くの人々の行動様式が変化しているのが確認できる。住宅ローン金利への関心の高まりや、金利水準に応じた預入先の再検討などなどである。今後も、さらなる正常化が想定されるだけに、将来の見通しに沿った対応が求められるのは言うまでもない。
その際に議論の俎上にあがってくるのは、凍結されていた「日銀ETF(指数連動型上場投資信託)問題」である。国会で取り上げられる頻度も高まっており、金利の正常化だけでなく、大量に購入した株価指数連動型のETFについての正常化も注目され始めている。中央銀行が株式を保有しているETFの現状と、その課題及び対応策を改めて検討するニーズは高まっていると言えよう。
資産運用立国の掛け声だけでなく、多くの個人投資家は、2024年以降、新NISA制度を活用して株式への投資を拡大させている。多くの国民が株式投資に足を踏み入れたため、「令和の証券民主化」と言ってもよいだろう。
だが本家本元の「昭和(終戦後)の証券民主化」は、その後に続くドッジラインによる株価下落で失敗に終わっただけに、注意が必要だ。1950年前後の株価下落に懲りた個人投資家は、短期間に購入した株式を手放し、かえって「投資から貯蓄」が進んでしまったからである。このような失敗を二度と繰り返してはいけない(2月22日寄稿記事参照)。
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大切なことは、企業価値の向上に引き寄せられて、家計の資金が成長投資に向かうことであるのは言うまでもない。トップダウン型で政府が資金を誘導するのではなく、ボトムアップ型で民間の資金が沁み出していくのが求められている。優良な投資対象に資金が回っていくのは自然な現象と言えよう。
とはいえ証券民主化にとって立ちはだかる壁は、トップダウン型で政府が取り除いていく必要があるはず。この壁とは、日本銀行が異次元緩和期に積み上げたETFの処理(出口戦略)である。せっかく盛り上がった「貯蓄から投資へ」という政府肝いりの政策を台無しにしないためにも、智恵をしぼった対応が欠かせない。