「核融合の最初の開発はスタートアップ以外にない」

田口:総量を明らかにするのは現時点では難しいですが、現在のベースロード電源(※)の代替くらいの発電量は確保できると見込んでいます。つまり、原子力と石炭火力発電を代替していくことが可能だと思います。

 弊社が開発を進めるヘリカル型核融合炉は、特に安定的に動かせることが特長なので、基盤となるベースロード電源の供給に使うのが最も効率がいいと思います。

※ベースロード電源:コストが安くて安定的に発電できる電力源。現状では、原子力や石炭火力、水力、地熱発電などがこれにあたる。

──その場合、1カ所に大きな施設があって、各地に送電するのか、それなりに各地に発電所を作っていくのか、どちらになるのでしょうか?

田口:両方あり得ると思っています。それは弊社の方針というより、国や地方自治体の電力政策次第です。弊社は技術的にはどちらにも適応できるように設計しています。

 ある程度、小型の発電設備を分散することも今の設計で可能ですが、核融合炉は大型化するほうが比較的簡単です。プラズマの体積を大きく取れるほうが性能を出しやすいので、中央集中型で、1ギガワット級の炉をいくつか作るほうが、むしろ実現しやすいと考えています。

──東京電力のような大手電力会社がイニシアチブを取って核融合の研究開発を進めないのはなぜでしょうか?

田口:最初に核融合炉を開発するのは、スタートアップ以外にはないと思います。核融合は既存の発電技術を破壊する技術だからです。すでにビジネスモデルや収益源が構築・運用されている事業者が、それを脅かす技術を自ら開発するのは構造的に難しいのではないでしょうか。

 だから、まずは核融合の研究開発に全振りすることができるスタートアップが火をつけていくことになります。

 ただ、実際に核融合発電技術を社会実装して、世の中に送電していくという段階になると、スタートアップ1社だけでは実現できません。プラントや送電に関するノウハウやインフラを持っている大企業様ともパートナーシップを組んで達成していくことになると思います。

──2034年実用化の可能性を語っていますが、課題としてはどのようなことがありますか?

田口:一番大きな課題はお金です。もちろん技術課題もあり、まだ開発要素がいくつかありますが、ヘリカル型は、他の方式と比べて発電炉を成立させるまでの致命的なボトルネックがほとんどありません。

 他の方式は、解決方法が明確になっていないサイエンスのリスクも含めて、まだ問題や課題が見受けられます。ヘリカル型は今ある技術を活かして開発さえできれば、なんとか実現できそうな唯一の方式だと我々は考えています。

 まだ頑張らなければならない部分はいくつかありますが、それを達成すれば本当に実現できると思います。そのために必要なのは、まずお金です。