
米アマゾン・ドット・コムのアンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)は2025年4月上旬、株主宛ての書簡を公開し、同社が進める1000億ドル(約15兆円)規模のAI(人工知能)分野への投資について「競争力を維持するために不可欠」であると説明し、今後の重点戦略として明確に位置付けた。米中対立を背景に懸念される輸入関税の影響に関しては、現時点での需要への大きな影響はないとの認識を示した。この書簡は、巨大IT(情報技術)企業がAI開発競争にどのように臨むか、その戦略と現状認識を示すものとして注目されている。
顧客体験「再発明」、AI投資は「必然」
ジャシーCEOはこの中で、「あらゆる顧客体験がAIによって再発明されると信じるならば、AIに深く、そして広範に投資することになる」と述べ、顧客体験の向上を使命とする同社にとってAI投資が必然であると強調した。具体的には、AI向け半導体の確保やデータセンターの構築・増強に多額の設備投資が必要だとし、「今、積極的に投資することが、我々の顧客、株主、そして事業のためになる」との考えを示した。
アマゾンは競合の米グーグルや米マイクロソフトと同様に、生成AI分野への投資を加速させている。具体例として、①電子商取引(EC)事業者や法人顧客、消費者向けの様々なチャットボット(対話型AI)のリリース、②AIスタートアップの米アンソロピック(Anthropic)への約80億ドル(約1兆2000億円)の投資、③アンソロピックのAI基盤モデル「Claude(クロード)」を組み込んだ新型音声アシスタント「Alexa+」のリリース、などが挙げられる。
今回のジャシー氏の書簡は、「AIによる商機はこれ以上ないほど大きい」として大規模投資を表明したグーグルのスンダー・ピチャイCEOの発言と軌を一にするもので、米テック大手の間でAI開発競争が激化していることが、あらためて示された。
関税の影響は軽微? AWS・AI好調でインフラ投資継続
米中の貿易対立に伴う輸入関税の脅威が世界市場を揺るがしているが、ジャシー氏は書簡で直接言及しなかった。しかし、米経済ニュース局CNBCとのインタビューでは、「一部の在庫発注を前倒しした」ことや「価格を低く抑える努力をしている」ことを明かしつつも、「関税を巡る混乱による需要への顕著な影響はまだ見られない」と述べた。一部カテゴリーでの買い急ぎの動きはあるものの、全体的な消費行動に大きな変化はないとの認識を示した。