アラブ首長国連邦(UAE)で開かれていた気候変動対策の国連会議、COP28が12月13日に閉幕した。焦点となっていた化石燃料について意見が対立するなど、例年通り、各国の食い違いがあらわになった。現実の世界ではCO2排出量が増え続けており、温暖化対策はなかなか進まない。その流れを変えられるのが核融合発電だ。2050年に実現すれば、地球温暖化のペースを緩やかにして、やがて止めることができる。核融合の技術力で先頭を走る日本がリードして開発を進めるべきだ。
(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
事実上無尽蔵で安全かつ核拡散の心配がない
核融合は順調に開発が進めば2050年には実用化される。その暁には、現在の原子力発電並みの手頃な価格で、事実上無尽蔵で、安全、かつ核拡散の心配もない、非の打ち所がない発電方式を、人類は手に入れることになる。
他方でいま、先進諸国は2050年までに脱炭素、つまりCO2排出をゼロにすると言っている。ならばそのころにようやく実用化される見込みの核融合には、もはや温暖化対策としての価値は残されていないのだろうか?
そうではない。なぜなら、現実には、先進国の2050年までの脱炭素はおぼつかないからだ。
原子力発電に一気に舵を切れば、発電部門からのCO2についてはほぼ脱炭素ができることになる。しかしこれには多くの国で政治的な反対が根強い。また核拡散の心配もある。
大型の水力発電は安価だが、開発される地点に物理的な限界がある。日本では、経済的に開発できる地点は、ほぼ利用され尽くしてしまった。
太陽・風力などの間欠性の再生可能エネルギーは、発電していない間は既存の発電設備に頼らざるを得ない。結局のところ二重投資になり、電気代はかさむことになる。ドイツやデンマークは、再エネは多いが、そのせいで電気代が高い。
木材チップやソルガム(こうりゃん)などのバイオ燃料も現状では化石燃料よりはかなり高価である。技術開発次第で化石燃料に近いコストになるかもしれないが、世界中のエネルギーを供給するとなると、広大な面積が必要になるため、生態系保全などの観点から政治的な反対が強まるだろう。
また、CO2の排出源としては、発電所以外の、工場やオフィスにおける化石燃料の直接燃焼の方がはるかに大きく、発電所の倍はある。鉄やセメントを生産するための石炭、プラスチックを生産するための石油やガス、工場におけるボイラーで使う石油やガスなどだ。この脱炭素には費用がかさむため、あまり進みそうにない。