政府も核融合戦略の策定に乗り出し、ニュースなどで「核融合」が取り扱われる機会が増えつつある(写真:アフロ)

次世代エネルギー源として核融合に注目が集まっている。政府でも来年春を目途とした「核融合戦略」の策定が始まった。核分裂反応を用いる現在の原子炉と比べ安全で、二酸化炭素も高レベル放射性廃棄物も排出しない「夢のエネルギー」と言われるが、開発にはハードルの高さも指摘されてきた。実用化に向けたポイントは何か。核融合研究者である慶応義塾大学の岡野邦彦・訪問教授に聞くインタビュー記事の後編をお届けする。

前編「核融合開発は『エネルギーのアポロ計画』、政府は2兆円を投じ実用化を急げ」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72200)から読む

(杉山大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

核融合炉は地震の多い日本に向いている

杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹(以下、杉山):核融合のライバルを考えたいと思います。化石燃料はもちろんライバルです、CO2の問題があるので減らせるならば減らしたい。太陽光発電や風力発電は不安定なので限界があります。革新型原子炉はよきライバルになりそうです。

 どこに立地するかが問題ですが、最近、米国エネルギー省が「石炭から原子力へ(Coal To Nuclear、C2N)」という報告を出しました。石炭火力発電所の跡地に原子力発電所を立地するというものです。大型の軽水炉でリプレースしてもよいし、小型モジュール炉(SMR)などの小型の革新型原子炉でもよい。

 メリットは、既存の送電インフラなどが使えてコストダウンになること、電力需要が確保されていること、地元の雇用が継続するので政治的支持が得られること、などです。これが進めば、米国、インド、ロシア、中国などの石炭大国では案外と早くCO2が大規模に減るかもしれません。ただし日本では地震や津波もあるので、敷居は高くなります。

岡野邦彦・慶応義塾大学・訪問教授(以下、岡野):「C2N」の話は、核融合発電も全く同じことができそうですね。「Coal to Fusion(Fusionは「融合」の意)」なので、「C2F」といったところでしょうか。既存インフラの利用、需要の確保、雇用の継続などのメリットはすべて同じです。

 核融合炉は、プラズマを1億度に維持しなければならず、反応を起こすのは大変ですが、その代わり何か異常が起きればすぐに核融合反応は停止します。つまり原理的に安全性が高いので、地震の多い日本の火力発電所のリプレースにも向いているかもしれません。

岡野邦彦(おかの・くにひこ)氏 慶応義塾大学 訪問教授 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。東芝R&Dセンター、電力中央研究所、国際核融合エネルギー研究センター(原型炉設計活動リーダー)、慶応義塾大学機械工学科(教授、2020年退職)。文部科学省の核融合科学技術委員会委員、同原型炉開発戦略タスクフォース主査など、1990年代から国の核融合関連委員会に関与。