常態化する電力不足の解消は日本復活の最低条件。政府が東京電力・東北電力管内に初の「電力需給逼迫(ひっぱく)警報」を出した今年(2022年)3月には東京タワーも節電モードになった(写真:ロイター/アフロ)

2050年に温暖化ガス排出実質ゼロを目指す政府は、「脱炭素」技術の開発を促すため「GX経済移行債」なるものを発行する計画を掲げている。だが、前回の記事で論じたように、世界の分断により、もはやCO2ゼロシナリオは妄想でしかない。国債を発行するなら、むしろ日本の製造業を復活させるための「日本製造債」の方が良いのではないか

(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

国債は経済成長に資するものであるべき

 前回の記事(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71918)では、「脱炭素」技術の開発を促すため政府が計画する「GX経済移行債」(通称、環境債。GXとはグリーントランスフォーメーションの意)を発行したところで、世界の「CO2ゼロ」というシナリオがまったく非現実的なものであるゆえ、無駄に終わるであろうと述べた。

 本来、日本では赤字国債の発行は禁止されている。同じ国債を発行するにしても、例えば建設国債であれば、建設することで「経済成長によって国民全体に利益がもたらされ、税収も増えるから、やがて税金で償還することで辻褄が合う」という前提があるからこそ発行される。

 同様に、例えば教育であれば国債を発行してもよかろう。国債ではないが、最近設立された大学ファンドのような方向であれば、公的な資金(この場合、主に財政投融資)を投入しても長期的に国民に還元されるから正当化できる。

 だが環境債はどうか。

 いまの政府の資料を見る限り、そこから育つことになっている技術の多くは、経済成長に資する見込みがほとんど立っていない。ならば国債として発行することは誤りだ。カーボンニュートラルという理由だけで、どんな高価な製品でも世界がこぞって買ってくれるというなら話は別だが、そんな前提は妄想だ。