原発2基の停止を延期したロベルト・ハーベック副首相・経済・気候保護相(写真:ロイター/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 ドイツの各種世論調査によると、ヨーゼフ・ショルツ首相を擁する中道左派の最大与党・社会民主党(SPD)の支持率が低迷しており、3位にまで後退している(図)。一方で、2位に躍進したのが連立政権の主要なパートナーである環境政党、同盟90/緑の党(B90/Grünen)だ。なお、首位を走るのは中道右派の同盟(Union)である。

【図 ドイツ主要政党の支持率】

(出所)Forsa

 B90/Grünenの元共同代表だったアンナレーナ・ベアボック氏は外相を務めており、もう一人の元共同代表だったロベルト・ハーベック氏は副首相と経済・気候保護相を兼任している。若く精力的な両名がアイコンとなり、同党のイメージアップにつながった。そのB90/Grünenは現在、脱原発・脱炭素・脱ロシアの「三兎を追う」を進めようとしている。

 脱原発・脱炭素・脱ロシアは、いずれもB90/Grünenの党是といえる。環境政党である同党にとって、放射性廃棄物を生み出し、深刻な環境汚染を引き起こすリスクがある原発は認めがたい発電手段だ。脱炭素化も、地球温暖化対策を重視する同党にとって不可欠なもの。ロシアとの関係見直しは、同党は長らく主張してきたことだ。

 そして、2月24日にロシアがウクライナに侵攻したことは、ロシアとの経済・外交関係の見直しを早くから主張してきたB90/Grünenにとって、非常に強い追い風になった。同党が脱炭素化の観点から重視してきた再エネはエネルギーの脱ロシア化にも資するものだとして、B90/Grünenは高々に再エネ拡充の号令をかけ、人々を鼓舞している。

 段階的にヨーロッパ向けの天然ガス供給を絞ってきたロシアは、8月末、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム」の稼働を遂に停止した。再開のめどが立たず、ロシアに対するエネルギー依存の危険性が強く認識される中で、B90/Grünenが叫ぶ脱ロシア化の必要性は、ドイツの有権者の間に一段と広まっているのだろう。