(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
台湾のエネルギー備蓄は極めてお寒い
中国による台湾封鎖のシナリオが米国シンクタンクから発表された。タイトルは「強要して屈服させる(From Coercion to Capitulation)」。アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)と戦争研究所(ISW)の共同研究である。
【参考】
◎「アメリカがやっと気づいた『中国は戦争をしなくても台湾統一ができる』という脅威」(遠藤誉氏による解説記事)
このシナリオでは、武力侵攻することなく、中国が台湾を併合する。概要は以下の通りだ。
- 2024年から2027年にかけて、台湾を取り巻く軍事演習と輸送船への立ち入り検査(臨検)を組み合わせて、事実上の海上封鎖をして、エネルギー・食糧などの重要物資の供給を途絶させる。
- サイバー攻撃やテロによって台湾内のインフラや行政機能を破壊する。
- 米国・日本などが軍事介入しないように太平洋へのミサイル発射などで威嚇する。
- 以上により、台湾の生活を困窮させ、海外に見捨てられたという諦めムードを蔓延させて、台湾政府を中国との平和交渉のテーブルに着かせる。これが事実上の台湾の降伏交渉となる。
報告書は111ページにわたる大部で、このシナリオについて詳しく書いてある。そして台湾、米国、そして米国の同盟国(日本を念頭においていることは間違いない)に向けての政策提言もしている。
だがこのシナリオでひとつ疑問なのは、なぜ4年もかけるのかということである。台湾は、食料の在庫は半年分あるとされているが、エネルギーの備蓄事情は極めてお寒い。
石油は100日分以上の備蓄があるという。だが石炭は現状では40日分しかなく、これを50日分に伸ばそうとしているところである。液化天然ガスは現状では11日分しかなく、2027年までに14日分に増やそうとしているだけである。
【参考】
◎『The Resilience of Taiwan’s Energy and Food Systems to Blockade』(Jackson Rice、CENTER FOR EXCELLENCE IN DISASTER MANAGEMENT & HUMANITARIAN ASSISTANCE ROBERTSON FOUNDATION FOR GOVERNMENT FELLOW UNIVERSITY OF CALIFORNIA SAN DIEGO SCHOOL OF GLOBAL POLICY AND STRATEGY)
◎『台湾「経済封鎖」に脆弱性、エネルギー備蓄薄く』(日本経済新聞2024年4月30日電子版)
台湾のエネルギー需給状況は日本にとてもよく似ている。