次世代エネルギー源として核融合に注目が集まっている。政府でも来年春を目途とした「核融合戦略」の策定が始まった。核分裂反応を用いる現在の原子炉と比べ安全で、二酸化炭素も高レベル放射性廃棄物も排出しない「夢のエネルギー」と言われるが、開発にはハードルの高さも指摘されてきた。実用化に向けたポイントは何か。核融合研究者である慶応義塾大学の岡野邦彦・訪問教授に伺った。
[参考リンク]
政府資料「核融合戦略の策定について」(令和4年9月、科学技術・イノベーション推進事務局)
朝日新聞記事「核融合戦略を政府策定へ 『協調から競争の時代に』研究を加速」
(杉山大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
乾坤一擲の計画で実現前倒しを
杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹(以下、杉山):政府の核融合戦略の策定が始まりました。政府資料を見ると、大型の実験核融合炉であるITER(国際熱核融合実験炉、国際共同研究で2025年に稼働開始予定、フランスに建設中)やその後の原型炉については既定路線通り進め、加えて、民間投資の呼び込みやベンチャー企業の参加が検討されるようです。
これはこれで結構なのですが、どうも物足りません。というのは、いま世界でも日本でも脱炭素のために莫大なお金が投じられています。核融合の実現時期を大いに前倒しする「乾坤一擲」の計画が欲しいところです。
岡野邦彦・慶応義塾大学・訪問教授(以下、岡野):はい、そう思います。1980年代に計画が始まったITERは、2007年から建設が開始され、もうすぐ完工します。その後の原型炉についても研究が進んでいます。
ITERと同じく磁場を使う「トカマク方式」という原理はずっと同じながら、これまでに大型から小型までいろいろと検討をして、設計の改良を重ねてきました。現在の計画では、原型炉は2035年に「建設の可否を判断する」ことになっています。
杉山:近年の温暖化問題の高まりを受けると、もっと前倒しをしたいですね。