核融合の実現に必要な社会的要請
──投資や国の助成金が想像以上に多く得られたら、2034年より早く実用化ということもあり得ますか?
田口:実現しうるギチギチのスケジュールを前提に研究開発ロードマップを作っており、最短で2034年を目指せるという内容です。ちゃんとお金が投入することができれば、2034年に発電を実現できる、ということです。
逆に言えば、十分な資金が得られなければ実用化も遅れます。しかし、核融合炉の実現は、我々の夢という以上に、社会からの要請ありきで成立することです。政府や国民の皆さんが望まなければ実用化は進みません。
ですから、資金が間に合わないということであれば、そこまで社会的要請がまだないのだと理解するしかありません。とはいえ、諦めては始まりませんので、いろいろな方にしっかりと説明させていただきながら、2034年に間に合うように全力で進めたいと思っています。
核融合は、ただ新しい発電方式というだけではありません。電力を得られるだけではなく、その1つ手前の「エネルギーそのものを炉で生産する」というところがポイントです。
核融合は太陽のエネルギーを地球上で再現する仕組みですから、化石燃料も含めたすべての基になるエネルギーです。つまり、エネルギー源を自分たちで作れるようになる。
国家レベルでは、エネルギー自給率を上げるだけではなく、エネルギーの輸出も可能になります。これはサウジアラビアやUAEなどが地理的にたまたま持っている資源で行っていることを、自分たちで生産したエネルギー資源で実現できるということです。
利便性やコストについて論じることももちろん大事ですが、核融合という技術の最大のリターンは国家安全保障だと思います。資源に乏しい日本において、お金に換算しきれない価値があるからこそ、リソースをかけて開発するべき技術だと考えています。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。