1.石破論文の概要

(1)石破論文の内容

 序文に次のような説明がなされている。

「石破茂氏は、9月27日に石破氏が自民党総裁に選出される前に、ハドソン研究所日本会長からの要請に応え、独占的に、日本外交政策の将来について自身の見解を語った。以下の非公式な翻訳は、石破氏の国会議員としての個人的な意見であり、必ずしも次期首相としての見解を反映するものではない」

 以下に、同論文の日本語版の一部を転記した。同論文の題名は、「日本の外交政策の将来」である。

▲アジア版NATOの創設

 安全保障環境はウクライナ戦争で一変した。ウクライナ戦争は国連常任理事国のロシアによるウクライナに侵攻することで始まった。

 これは国連という集団的安全保障体制の限界である。

 バイデン大統領は「ウクライナはNATOに加盟していないから防衛義務を負わない」「ウクライナはNATOに入っていない。だからアメリカは軍事力行使はしない」 それがアメリカの理屈であった。

 国連憲章51条により、「被攻撃国から救援要請があった場合に国連安保理の決定がなされるまでの間、集団的自衛権を行使することができる」というのは、すべての国の権利である。

 それはウクライナがNATO加盟国ではないからと否定されるものでないのであるが、米国はそのような行動はとらなかった。

 今のウクライナは明日のアジア。

 ロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えれば、アジアにNATOのような集団的自衛体制が存在しないため、相互防衛の義務がないため戦争が勃発しやすい状態にある。

 この状況で中国を西側同盟国が抑止するためにはアジア版NATOの創設が不可欠である。

 そのために日本は安倍政権のときに憲法解釈の変更を行い集団的自衛権の行使を認める閣議決定をした。

 日本への直接的な攻撃に対して最小限の武力行使しか許されなかった自衛隊は、親密な他国が攻撃を受けた場合でも、一定の条件を満たせば反撃可能になったのである。

 その後、岸田政権下で「安保三文書」を閣議決定し、防衛予算を国内総生産(GDP)比2%へ増加させ反撃能力を確保した。

▲国家安全保障基本法の制定

 しかし、これらの措置は閣議決定や個別の法律で定めているに過ぎない。

 日本では、国政の重要課題は、国会で基本法を制定し、その方向性を国民の前に明示し個々の政策を進めるのが通例だが、安全保障に関しては、基本法がないまま今日に至っている。

 我が国を取り巻く地政学的危機はいつ戦争が起こってもおかしくない状況にまで高まっている。

 その危機への対処のために「国家安全保障基本法」の制定が早急に不可欠となる。

「国家安全保障基本法」は自民党内でも検討を重ねたものであり、私の外交・安全保障政策の柱の一つであり、続けて自民党の悲願である憲法改正を行う。(以下、省略)

▲米英同盟なみに日米同盟を強化する

 日本は、戦後80年近くにわたり安全保障上の課題をひとつひとつ乗り越えてきた。

 石破政権では 戦後政治の総決算として米英同盟なみの「対等な国」として日米同盟を強化し、地域の安全保障に貢献することを目指す。

 安全保障政策を総合的に推進する枠組みを築くことで、日本の独立と平和を確保し、安定した国際環境の実現に主体的かつ積極的に寄与すべきと考える。

 日米安全保障条約は、日本の戦後政治史の骨格であり、二国間同盟であり時代とともに進化せねばならない。

 アーミテージ・ナイ・レポートはかつて米英同盟の「特別な関係」を同盟のモデルとして、日米は「対等なパートナー」となることを提案した。

 今、それが可能となり、米国と肩をならべて自由主義陣営の共同防衛ができる状況となり、日米安全保障条約を「普通の国」同士の条約に改定する条件は整った。

 アメリカは日本「防衛」の義務を負い、日本はアメリカに「基地提供」の義務を負うのが現在の日米安全保障条約の仕組みとなっているが、この「非対称双務条約」を改める時は熟した。

 日米安全保障条約と地位協定の改定を行い自衛隊をグアムに駐留させ日米の抑止力強化を目指すことも考えられる。

 そうなれば、「在グアム自衛隊」の地位協定を在日米軍のものと同じものにすることも考えられる。

 さらに、在日米軍基地の共同管理の幅をひろげていくなどすれば在日米軍の負担軽減ともなろう。

 米英同盟なみに日米同盟を引き上げることが私の使命である。

 そのためには日本は独自の軍事戦略を持ち、米国と対等に戦略と戦術を自らの意思で共有できるまで、安全保障面での独立が必要である。

 保守政治家である石破茂は、「自分の国家は自分で守れる安全保障体制」の構築を行い、日米同盟を基軸としてインド太平洋諸国の平和と安定に積極的に貢献する。