3.アジア版NATOの効果と問題点

 本稿では、温故知新の精神で、過去の識者の論考の中から、アジア太平洋版NATOの効果と問題点を指摘する論考を紹介する。

(1)アジア版NATOの効果

 本項は、日本経済新聞・高坂哲郎編集委員「ウクライナ危機が導く太平洋版NATO中国けん制 」(日本経済新聞、2014年3月20日)を参考にしている。

①第1に、日本や米国、オーストラリアなど、民主主義と市場経済という価値を共有する国家群が、中国の軍事的台頭に力を合わせて対抗できる。

 近年、日米豪の3か国による閣僚会合や共同訓練はごく普通の光景となった。豪海軍艦艇が米海軍に一時的に組み込まれる形で日本近海にいることもある。

 これを正式な多国間同盟にし、NATOがベルギーのモンスに設けている常設軍事司令部と同様のものを設ければ、武力侵攻やテロ、大規模な自然災害などに今よりも機動的に対処できる。

②第2の効能として、米国を東アジア防衛により強く関与させる手段となる。

 日本のあるベテラン外交官は「いまや米国の孤立主義は、中国の台頭と並んで日本にとって脅威だ」と語る。

 多国間同盟の方が、米国は同盟上の義務をおろそかにしにくくなる。相手が複数だからだ。

③第3に、ドイツが戦後、NATOの傘の下で周辺の欧州諸国と和解したように、太平洋版NATOの下で、加盟国の関係がより緊密になるかもしれない。

(2)アジア版NATOの問題点

 本項は、国際基督教大学リポジトリで公表されている元国際基督教大学教授植田隆子著「アジア太平洋版NATOの問題」(筆者注:2014年の寄稿と思われる)を参考にしている。

①日米同盟を日本の安全保障政策の根幹と考える論者や政策形成者は、日本が特権的な利益を得ている二国間同盟を多数国間同盟に変えることに、米国の強い主導でもない限り、反対するものと思われる。

②どの国が提案するのかは不明であるが、中国と米国の間で均衡政策をとる韓国にとって好ましい選択ではないであろうし、大国間の対立に巻き込まれたくないASEAN加盟国や、中国と正面から対抗する道を選ぶとは思われないインドなどの現行政策を鑑みると、近々の実現性は低いものとみられる。

 何よりも、米国がこのような選択肢を追求するかどうか、という問題があろう。

③あらゆる国を包摂する国連の集団安全保障体制と異なり、集団防衛体制である同盟は外敵を想定して組まれるため、中国にせよ、ロシアにせよ、NATOという名称自体に軍事的敵対感を抱くという問題が挙げられる。

④アジア太平洋版NATOという議論は、中ロを刺激し、これらの国々の軍拡や、結束を強める理由として用いられる可能性がある。