(3)多国間安保協力の枠組みの整備

 2017年、米国のトランプ政権は日米豪印4か国による戦略対話の枠組みとして「QUAD:Quadrilateral Security Dialogue(クアッド):日米豪印戦略対話」を立ち上げた。

 またバイデン政権は2021年9月、米英豪の3か国で「インド太平洋地域の平和と安定の維持」に向けた新たな安全保障の枠組みを構築すると発表し、加盟国の頭文字をとって「AUKUS(オーカス)」と名付けられた。

 特定の国を名指ししてはいないが、米英豪の安全保障協力であるAUKUSが中国の覇権的な海洋進出を睨んだ3か国の連携強化に狙いがあることは明らかだ。

 3か国は連携の一環として、次期潜水艦の開発と配備を目指す豪州に対し、米英が原子力潜水艦の技術を提供することで合意したことも明らかにした。

 QUAD より軍事的色彩が強いAUKUSを構成する米英豪3か国は「ファイブアイズ(Five Eyes)」のメンバーでもある。

 ファイブアイズとは、米国・カナダ・ニュージーランド・豪州・英国の英語圏5か国の機密情報共有の同盟である。

(4)重層化する多国間安保協力

 高まる中国の脅威に対処するため、米国は安倍晋三元首相の提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」を基に日米豪印からなるQUADを発足させたのに続き、英国をメンバーとする、より軍事的色彩の強い米豪英のAUKUSも立ち上げた。

 またバイデン政権は、中朝の脅威に備えるべく日韓の関係改善を促し、日米韓三国による安保協力体制を整備するとともに、台湾有事への対応を意識し、また中国の南シナ海における島嶼不法占拠や威圧的行動を牽制抑止する目的で日米比による安保協力の枠組みを構築し、さらにベトナムや豪州をこれに加える動きも加速させている。