ドイツの姿は明日の日本

 そもそも不景気であるにもかかわらず、人手不足が深刻である現状に鑑みれば、ドイツが今後、景気の拡大に対応できるかは疑わしい。投資を強化して資本生産性や全要素生産性を引き上げるにしても、時間を要する。

 加えて、ドイツ企業も外資系企業も、不安定なエネルギー情勢もあってドイツでの投資に慎重になっている現実がある。

 結果として、国民が労働時間を増え過ぎた賃金に見合うだけ増やすか、または労働時間に見合う水準まで賃金を見直すか、あるいはその両方を進めるかしないと、ドイツは経済活動を維持することができないだろう。

 短期的には経済規模が縮小するかもしれないが、両方をバランス良く進めることが現実的な選択肢かもしれない。

 かつて「インダストリー4.0」の名の下に、投資を強化してきたはずのドイツでさえこの状況である。

 日本でも、少子高齢化に伴う人手不足は今後ますます深刻化する。需要の刺激よりも大切なことは、供給を維持するための、そして効率化させるための構造改革、具体的には雇用の流動化や賃金の弾力化といった改革の断行にある。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

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【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)がある。