雇用者増の背景にある働かなくなったドイツ人
フォルクスワーゲンは2024年1-3月期の営業利益と純利益がそれぞれ前年から2割も減少するなど経営が悪化している。管理職の早期退職を促すため、割増退職金の準備に伴う引当金を9億ユーロ(約1500億円)計上することが、5月の頭に報じられたところだ。
今後も景気は停滞するため、ドイツで雇用整理の動きが広がることになるとIWは予測している。
加えて、ドイツでの就労資格を持つウクライナからの難民や移民が増えていくことも失業者の増加につながる要因だ。不景気の真っただ中にあった2005年の失業者数(490万人)には及ばないが、ドイツの失業者は今後さらに増えることになる。
このように、失業者が増える環境にもかかわらず、最新2023年10-12月期の雇用者数は4852万人と、1年前の4561万人から21万人増加した。その最大の理由は、雇用者の労働時間がこの10余年で着実に減少しているように、ドイツ国民が働かなくなっていることにあると考えられる(図表2)。
【図表2 ドイツの労働投入量】
ドイツ国民が働くなった理由としては、法規制の強化に加えて価値観の変化があるようだ。家庭や学業との両立を図りたい現役世代にとって、労働時間の削減は時代の要請だ。これは日本も同様である。
一方で、企業は景気が停滞しているとはいえ、必要な労働投入量(=一人当たり労働時間×労働者数)を確保しなければ、経済活動が行き詰まる。
とはいえ、国民の勤労意欲を刺激することは容易でない。
ドイツの経済界からはドイツ国民はもっと働くべきだという声が上がっているが、むしろ労働界では週休3日制の実現を要求する声が根強い。とりわけ、ショルツ政権の支持母体であり、国内最大の労組でもある金属産業労組(IGメタル)は、週休3日制の実現を強く主張している。
したがって、ドイツの企業は労働者の数を増やすことでしか、経済活動を維持するために必要な労働投入量を確保することができない状況となっているようだ。
ドイツが不景気であり、失業者が増えているにもかかわらず、雇用者もまた増えている状況の背景には、こうした国民の労働時間の短縮化という構造的な要因が存在している。