- ドイツの連立政権は気候保護法の改正で合意に達した。経済主体ごとに定められている温室効果ガス(GHG)の排出削減目標を経済全体の目標に広げる内容だ。
- 同時に、再生可能エネルギーの比率をさらに増やすため、太陽光発電の普及を促すことを決定した。
- もっとも、緯度の高いドイツは太陽光発電に向いているとは言えない。安価なロシア産ガスが途絶した中で脱原発と脱石炭火力を目指すドイツの政策は理念先行に過ぎるのではないか?
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ドイツの連立与党である社会民主党(SPD)と同盟90/緑の党(B90/Grüne)、自由民主党(FDP)の3党は、4月15日に気候保護法の改正で合意に達した。
現在の気候保護法では、経済主体ごとに温室効果ガス(GHG)の排出削減目標が定められているが、これを改めて、経済全体でGHGの排出削減を目指すことになる模様である。
気候保護法の改正には、連立3位であるFDPの意向が強く働いている。
FDP出身のフォルカー・ウィッシング運輸・デジタル相は、現行法で運輸部門に課されたGHGの排出目標を達成するためには、週末に自動車の運転を禁止するしかないと主張した。つまり、それだけ非現実的な目標を課していると、現行法の在り方を批判したわけだ。
SPDとB90/Grüneは経済全体でGHGの排出削減を目指すことは容認したが、一方で2045年までの気候中立を目指すという気候保護法の骨格そのものは維持している。
そもそも現行法の改正に関しても、とりわけB90/Grüneは自らの支持母体である環境団体から強い批判を浴びた中での決定であり、これ以上の譲歩は不可能だろう。
一方で、連立3党は今回の気候保護法の改正で、太陽光発電の普及を促すことを決定した。行政手続きの簡素化を進めて、太陽光パネルの設置しやすくすることが骨子で、具体的にはベランダに太陽光パネルを設置しやすくしたり、太陽光によって自家発電した電力を集合住宅で利用しやすくしたりすることを想定している。
ヨーロッパでも、中国による廉価な太陽光パネルが市場を席巻している。閣内ではヨーロッパ製の太陽光パネルの購入に際して補助金を給付する案も浮上したが、納税者の負担増に反対するFDPの反対によって見送られた。
SPDとB90/Grüneの支持率が低迷する中で、FDPの閣内での影響力は強まっているように見受けられる。
ここでドイツ連邦統計局の資料より、2023年時点でのドイツの電源構成を確認すると、再生可能エネルギーは〜52%を占めている(次ページ図表1)。うち風力が26.8%と過半を占め、次いで太陽光が11.9%、バイオマスが8.5%となっている。
ドイツの国土は平地が多く、山地に乏しい。そのため、急勾配の河川も少なく、水力が電源構成に占める割合は3.8%にとどまっている。