ベビーブーマーの退出、徴兵、難民増の三重苦
さらに、賃金の急増で経済の高コスト化が進んでしまったことも、ドイツの経済界を悩ませている。
ドイツは2015年に最低賃金制度を導入したが、2021年に成立した左派のショルツ連立政権は、分配重視の立場からインフレを上回るピッチで最低賃金を引き上げた。その結果、国民の賃金は企業業績の改善を上回るテンポで増加した。
こうした環境の下で、今後ドイツの労働市場は労働供給の構造的な減少に直面する。
何より大きな動きとして、戦後生まれのベビーブーム世代の引退がある。連邦統計局の推計によると、今後2036年までに現在の労働人口の約3割に相当する1290万人の労働者が法定の年金受給年齢に達し、労働市場から退出する可能性がある。
加えて、今年4月にボリス・ピストリウス国防相が言及したように、ロシアへの警戒感や米国への不信感から、2011年7月に停止された徴兵制が再開される見通しとなっている。
停止直前の徴兵制の下では、18歳から27歳の男性に対して6か月の兵役が課されていた。再開後の条件は不明だが、これもまた労働供給の構造的な減少要因となる。
このような労働供給の減少は、ドイツ経済にとって負の供給ショックとなる。賃上げで労働力を確保しようにも、それは企業業績に見合う範囲でしか実現できない。
それでは、不足する労働力を外国人労働者でまかなえるかというと、それも限界がある。意思疎通や教育、文化的な摩擦などの問題は大きく、またハイスキル人材は各国との取り合いだ。