ドイツで政治家に対する襲撃事件が相次ぐ。写真は襲われたエッケ議員のポスター(写真:ロイター/アフロ)
  • ドイツで政治家に対する襲撃事件が相次いでいる。疑われているのは極右勢力との関係だ。
  • 襲撃犯の仲間と見られる人物が「ハイル・ヒトラー」と叫ぶ姿が目撃されるなど、ナチスを彷彿させる事件に警戒感が高まっている。
  • ヘイトを煽る極右勢力とロシアの関係を指摘する報道のほか、中道派の言説も過激化しているとの指摘もある。ドイツの民主主義は危機に直面している。(JBpress)

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 5月7日、ドイツの首都ベルリンにある図書館で、昨年まで同市の市長だった女性議員が男に襲撃され、後頭部などに痛みを訴え一時病院で手当を受けた。何らかの重い物体を入れた袋で背後から女性を殴りつけた、74歳の男が逮捕された。

 襲撃の一報は、ドイツ国内だけではなくロイター通信など、主要欧米メディアでも速報された。被害者の怪我の程度も比較的軽く、死傷者もいない襲撃事件がなぜ、これだけの注目を集めたのか。それは、ドイツではこの事件に至る1週間の間に、政治家に対する同様の襲撃が3件も立て続けに起き、重傷を負った人もいたからだ。そして、政治家に対する暴力、並びに脅迫や暴言を伴う行為は、この数件にとどまらない。

 ドイツは今月末から来月初旬にかけ、地方選挙、並びに欧州議会選挙を控えている。5月3日、中道左派の社会民主党(SPD)に所属するマティアス・エッケ欧州議会議員が東部ドレスデンで選挙戦用のポスター貼りをしていたところ、4人組の男に殴る蹴るの暴行を受けた。同氏はほお骨や目の周りを骨折し、緊急手術と入院を余儀なくされた。

多くの人からの支援に感謝するエッケ議員のX投稿。「これは私だけの問題ではなく、政治に情熱を注ぐすべての人たちに関わること。民主主義において、誰もが自らの意見を表明することを恐れるべきではない」(出所:エッケ議員のXアカウント

 報道によれば、同じグループと見られる若者らはドレスデンで、同じく選挙活動中だった緑の党党員も襲撃。目撃者によれば男たちはエッケ議員同様、この党員に対しても殴る蹴るの暴行を加えていたという。

 エッケ議員襲撃犯の1人である17歳の少年が5日、母親に付き添われて警察に出頭し、残る3人の身元も判明した。全員が17〜18歳のティーンエイジャーで、この中の少なくとも1人は極右団体との関連が治安当局者によって確認された。その後、地元メディアの調査報道で、このうち3人が極右の過激派組織との繋がりがあったことが判明している。