ロシア大統領選挙投票日の3月17日、欧州各地で反プーチンの集会が開かれた。写真は独ベルリン(写真:ロイター/アフロ)
  • ロシア反体制派の活動家、ナワリヌイ氏が獄中で死亡してから2カ月が過ぎた。妻ユリア氏は同氏の遺志を継ぎ、西側諸国の首脳らと会談するなど精力的に活動を続けている。
  • 国外に散らばる反体制派がユリア氏を軸に結集することを期待する声もあるが、ユリア氏の政治手腕は未知数だ。
  • そうしたなか、ナワリヌイ氏の回顧録が今秋出版される。「プーチン打倒」の一石となるだろうか。(JBpress)

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)


 ロシア・プーチン大統領の汚職疑惑などを長年追及し、反体制派の急先鋒で活動家だったアレクセイ・ナワリヌイ氏(享年47)が極北の刑務所で死亡してから2カ月が過ぎた。この間、プーチン氏は3月の大統領選で「圧勝」し、通算5期目の当選を果たした。

 選挙前に執り行われたナワリヌイ氏の葬儀には、戦時下の厳戒態勢で集会などが禁じられ、参列すれば逮捕の危険があったにもかかわらず、数万とも言われる人々が押し寄せた。同氏を支持する層の大きさを物語る一幕だったであろう。

 その後も終わりの見えないウクライナとの戦闘は続き、モスクワ市内では先月、テロで140人以上もの人が犠牲となった。ナワリヌイ氏は生前「美しいロシア」を目指して活動していた。戦争や汚職を無くし、公正な選挙と言論の自由の保障された国のことだ。政治家として、そして一人のロシア国民として、同氏が終生思い描いたその理想とは程遠い現実が続いている。

プーチン政権に抗議するナワリヌイ氏の支持者=3月17日、ラトビアの首都リガのロシア大使館前(写真:ロイター/アフロ)

 ナワリヌイ氏の死後、同氏の生前の言葉として数多く引用された言葉がある。昨年、米アカデミー賞・長編ドキュメンタリー賞を受賞した『ナワリヌイ』の中で、「もしもあなたが殺された場合、ロシアの人々へのメッセージは」という問いに答えたものだ。

「あなた方に諦めることは許されない。もしも彼らが私を殺すなら、それは私たちがとてつもなく強いことを意味する」「邪悪なるものが勝利するために必要な唯一のことは、善良な人々が何もしないことだ」(ナワリヌイ氏)

 この言葉を発した際、後に現実となった自身の死をどの程度実感として意識していたかはわからない。しかし、結局はこうした言葉が同氏の「遺言」となってしまった感は否めない。