(英エコノミスト誌 2024年3月16日号)
敵はウラジーミル・プーチン大統領であり、1億4300万人の普通のロシア国民ではないことを西側は示さねばならない。
手本にしている帝政ロシア時代のツァーリ(皇帝)と同様に、ウラジーミル・プーチン氏が向こう6年間のロシアの支配者に再任されようとしている。
3月17日に同氏が勝利する選挙はイカサマでしかない。だが、西側諸国はそれでも選挙を警鐘と受け止めるべきだ。
ロシアの現体制は、崩壊するどころか打たれ強さを発揮してきた。
そしてプーチン氏の野心はウクライナのはるか彼方にさえ長期的な脅威を及ぼしている。
アフリカや中東で対立を拡大させ、国連を機能不全に追い込み、核兵器を宇宙空間に持ち込みかねない。
従って西側には、ならず者国家ロシアのための長期戦略が、それもウクライナ支援よりはるかに踏み込んだ戦略が必要だ。
今はまだ、そのような戦略を手にしていない。また西側は、敵はプーチン氏であって1億4300万人のロシア国民ではないこともはっきり示さなければならない。
かなわなかった体制崩壊への期待
西側諸国には、ロシアに対する制裁措置とウクライナにおけるプーチン氏の大失策(多くの若者の無意味な犠牲など)によってプーチン体制が行き詰まるかもしれないと期待する向きが多かった。
しかし、体制は生き延びた。
ウラジオストクでの暮らしを取り上げた本誌エコノミスト今週号の特集記事で紹介しているように、この体制の打たれ強さにはいくつかの礎がある。
まず、ロシア経済はリエンジニアリングを進めてきた。
石油の輸出は制裁を迂回して行われ、いわゆるグローバルサウスの国々に持ち込まれている。
BMWやH&Mといった西側ブランドは中国や国内のそれに取って代わられた。
教科書やメディアでは、人々を魅了するナショナリズムの逸話やロシアを被害者に位置づける言説が拡散されている。
国内の反対意見は抑圧されている。
プーチン氏の政敵のなかで最もカリスマ性のあったアレクセイ・ナワリヌイ氏は2月、強制労働収容所で殺害された。
ナワリヌイ氏に弔意を示す勇敢な人々の集まりを、クレムリンは今のところ苦もなく制御できている。
時が経つにつれ、プーチン政権は新たな脆弱性に直面することになるだろう。
西側の技術から切り離されたことによる影響が累積し、生産性を低下させる。これについては米ボーイング製の航空機の痛み具合や、ソフトウエアの海賊版に頼らざるを得ない現状を考えればいい。
中国への依存度がますます高まっていることも、いずれ弱点になるかもしれない。
経済の軍事化は生活水準に悪影響を及ぼす。
人口は今後20年間で1割ほど減る。そして現在71歳のプーチン氏が年齢を重ねるにつれ、跡目争いが始まる。
独裁者がいつ倒れるかを予測するのは難しいのが常だ。
しかし、当面の想定としては、プーチン氏がこれから先何年も権力を握り続けると考えておくのが賢明だろう。