(英エコノミスト誌 2024年3月2日号)

インドの発展を牽引している南部の都市バンガロール

地域的な分断がインドの今後を大きく左右する。

 インドが日の出の勢いの経済大国であることは大方の人が知っている。

 すでに世界で5番目に大きな経済規模を誇り、どの有力ライバル国よりも速いペースで成長している。株式市場も加速しており、時価総額が世界で4番目に大きい国になっている。

 また、ナレンドラ・モディ首相がここ数十年間で最も強力な権力者であること、そして首相の政策には経済発展はもとより、優位主義や権威主義に脱線しかねないヒンズー至上主義のポピュリズムも含まれていることも周知の通りだ。

 それほど知られていないのは、経済発展とアイデンティティー政治という2つの相容れないトレンドが一緒になって3つ目のトレンドに拍車をかけていることだ。

 次第に大きくなる南北分断がそれだ。

総選挙の決定的な争点

 裕福な南部はスタートアップ企業や大学、光り輝く「iPhone(アイフォーン)」組み立て工場などが建ち並ぶ、洗練された新しいインドだ。

 しかし、モディ氏の率いる政党が南部で獲得する票は少なく、比較的貧しくて人口が多く、農村中心でヒンディー語が話される北部での支持が頼りだ。

 この南北分断は、モディ氏が勝って3期目に突入すると予想されている今年4~5月の総選挙で決定的な争点になるだろう。

 この分断に長期的にどう対処するかがインドの将来にとって極めて重要になる。

 不穏なシナリオでは、南北の分断がいずれ憲政の危機を招き、インドの単一市場が瓦解する恐れがある。

 より平穏な未来になれば、分断の解消によってインドの容赦ないアイデンティティー政治が穏健化する可能性もある。

 地政学的な分断は国の発展の仕方に影響を及ぼすことが多い。米国の政治経済は南北戦争の遺産をいまだに引きずっている。

 中国の鄧小平は1992年に中国経済の開放を目指した時、「南巡講和」で広東省を訪れた。

 起業家の文化と開放の歴史にお墨付きを与えることで中国共産党内の保守派を押さえ込み、中国が経済超大国に台頭していく好景気に火をつけた。