(英エコノミスト誌 2024年2月24日号)
ロシアの侵略行為と米国のぐらつきは、欧州大陸の防衛体制がどれほど不十分かを露わにする。
ロシアの危険度が増している。
米国は以前ほど頼りにならず、欧州は準備が不十分なままだ。何が問題なのかはこのように簡単に表現できるが、その解決策の規模を把握するのは容易ではない。
北大西洋条約機構(NATO)に基づき、第2次世界大戦を踏まえて締結された数々の安全保障の取り決めは、第3次の発生を防いできた。
今では欧州社会の根幹で非常に大きな部分を占めているため、造り直すとなれば大変な大仕事になる。
欧州諸国の政治指導者は、ソビエト連邦崩壊後の慢心をすぐに捨てなければならない。
すなわち、防衛費をここ数十年間なかった水準まで引き上げ、無視されてきた欧州の軍事的伝統を復活させ、軍事産業を再建し、始まる恐れのある戦争に備えるということだ。
そうした取り組みは、まだほとんど始まってもいない。
ますます高まるロシアの脅威
ロシアの反政権運動の最有力指導者だったアレクセイ・ナワリヌイ氏が2月16日に流刑地で殺害されたことで、ウラジーミル・プーチン氏の冷酷さと暴力をめぐる幻想は完全に打ち砕かれたはずだ。
ロシアによるウクライナ侵攻は3年目に入り、ロシアが勝利しつつある。ロシアの大統領は経済を戦時体制下に置き、国内総生産(GDP)の7.1%相当額を防衛費にあてている。
デンマークの防衛大臣は、プーチン氏はひょっとしたらバルト3国のいずれかにハイブリッド作戦を仕掛けることで、今後3~5年以内にNATOに挑む用意を調えるかもしれないと述べている。
同氏の狙いは、いずれかの加盟国が攻撃されたら他の加盟国が支援に駆けつけるというNATOの約束を崩すことだ。
ロシアの脅威が増大しているのに、欧州の抑止力は弱くなっている。その理由の一つは、米国によるウクライナ支援がぐらついていることだ。
だが、次の米国大統領になるかもしれないドナルド・トランプ氏が、ロシアが攻撃してきた時に自分が欧州支援に乗り出すか否かについて疑問を投げかけているせいでもある。
米国の安全保障分野のエスタブリッシュメント(支配階層)の一部や共和党は、欧州への関与を弱めつつある。
米国の防衛体制は、ますます環太平洋に傾斜している。
たとえジョー・バイデン氏が再選されたとしても、根っからの汎大西洋主義(政治経済や軍事の面で西欧と北米の協調を志向する考え方)の米国大統領はバイデン氏で終わりとなるかもしれない。