(英エコノミスト誌 2024年2月3日号)

フーシによってイエメン沖で拿捕された商船(2023年12月5日、写真:ロイター/アフロ)

中国は新スエズ危機から政治的な利益を得ようとしている。

 今から6年前、中国で「紅海行動」という題名の映画が大ヒットした。

 世界最大の海軍の座を米国海軍から近年奪い取った中国海軍の勇敢な行動に初めてスポットライトを当てた、中国映画としてもてはやされた作品だ。

 イエメンのような紅海沿岸の国のテロリストが中国市民を人質に取り、海軍の特殊部隊がその救出に向かうという筋書きだ。

「今回のミッションはすべてのテロリストに対する、中国市民を傷つけるなというメッセージだ」とスクリーンに映し出された司令官が言う。

 中国共産党は愛国的な感情をあおるために映画の上映を取り仕切った。政府当局者たちは、この映画は「大国として責任を負っている」中国の姿を映し出していると話していた。

中国の影響力に期待する米国

 米国は中国が世界各地に手を伸ばしていることに警戒心を抱いている。

 だが、イエメンの反政府勢力フーシが紅海を通る船舶をミサイルやドローン(無人機)で攻撃し始めた11月半ば以降は、中東地域に現実に存在する危機の解決に力を貸すことによって、その大国精神を少し発揮するよう中国をせっついている。

 タイの首都バンコクで1月26、27両日に計12時間にわたって行われた会合で、米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は中国の外交トップである王毅氏に対し、世界貿易の大動脈への脅威を食い止めるために中国が影響力を行使できるのではないかと説得を試みた。

 しかし、中国は自分たちの責任について、米国とは異なるとらえ方をしている。

 中国としては、中東で威力を誇示したくない。

 この地域の安全保障は米国のせいで泥沼と化したと考えている。そしてこの機会に乗じて、アラブ世界との連帯を熱心に説いている。

 中東地域の安全保障が中国にとって重要であることは間違いない。

 2021年に紅海の入り口近くでコンテナ船1隻が座礁してスエズ運河が6日間通行不能になった時、中国商務省は、欧州に向かう中国製品の60%がスエズ運河を経由すると推計していた。

(昨年には、中国から世界に輸出されるモノのうち約17%が欧州連合=EU=および英国向けだった)