(英エコノミスト誌 2024年1月27日号)

移民政策の提案が民主党政権には不可欠だ

トランプの返り咲きを阻止するためには、民主党は移民政策の提案を行う必要がある。

 ドナルド・トランプ氏の母は、かつてバイキングの領地だったスコットランド北部のトングという寒村(人口500人)の出身だ。

 祖父はドイツ・バイエルン地方にある、ケチャップで知られるハインツ家を生んだカルシュタット村(人口1200人)の出身だった。

 ジョー・バイデン氏の祖先はアイルランドやイングランドから米国に渡ってきた。

 この国では誰もがよその土地の出身だ。住んでいる期間がはるかに長いとはいえ、ネイティブ・アメリカンでさえよそから来た。

 米国の魅力は極めて大きく、チャンスさえあれば移り住みたいという成人が世界各地に計1億6000万人もいる。

 この数は、ほとんどの米国民が受け入れてもよいと考える水準を何千万人も上回る。

バイデン再選の最大の壁

 このミスマッチこそ、バイデン大統領の再選を阻みかねない問題の核心だ。

 トランプ氏は2016年、「国境の混乱」に乗じて共和党の大統領候補指名争いを勝ち抜き、ひいては大統領の座を手に入れた。

 同氏は当時、記録的な数の非合法移民が国境を越えているかのごとく説いて回った。あの当時は正しい指摘ではなかったが、今では事実だ。

 米国の南側の国境を越えようとした人は、昨年11月だけで25万人近くに上った。新たにやって来る人々のほとんどは亡命を申請する。そして米国内で保釈され、申請の審査結果が出るまで数年待つことになる。

 バイデン氏が大統領に就任してから入国を認められた越境者は310万人を超える。シカゴの人口よりも多い計算だ。

 このほかにも、当局に見つからずに入国したか、ビザ(査証)の期限を過ぎたのに滞在している「オーバーステイ」の人々が少なくとも170万人いる。

 共和党の州知事たちは、こうした移民を民主党の知事が治める州に送り込み、南部の国境の問題を北部に追いやった。

 国境の安全保障確保については共和党の方が民主党よりも信頼されており、その差が30ポイントにも達しているのはこうした経緯のせいでもある。

 そしてこれこそ、共和党が民主党に最も大きな差をつけている争点だ。