ロシアの反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(写真:AP/アフロ)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 アレクセイ・ナワリヌイ。46歳。ロシア人の民主活動家、弁護士。妻と1女1男。

 2021年1月以降、9年の刑期で服役中。一応罪名はついているが、独裁国家のつねで、そんなものに意味はない。

 ナワリヌイは2010年前後から、政府批判の舌鋒の鋭さで一躍注目を浴びるようになった。クレムリンの頭痛の種で、見逃せば弱腰といわれ、捕まえれば殉教者になりかねない存在だったが、しかしもう捕まえてしまえばクレムリンのもの。

 プーチンはナワリヌイを忌み嫌い、「反体制の人」とか「その人物」などといって、ナワリヌイの名前を決して口にしない。「プーチンが最も恐れた男」といわれるゆえんだが、プーチンはかれの存在を認めたくないのだ。肝っ玉の小さい男だ。

 そんなナワリヌイを追ったドキュメンタリー映画『ナワリヌイ』が、第95回アカデミー賞(2023年3月開催)の長編ドキュメンタリー賞を受賞した。監督は撮影時まだ29歳だったダニエル・ロアー。

第95回アカデミー賞授賞式。左からナワリヌイ氏の娘のダーシャ、妻のユリア、息子のザハル、ロアー監督(2023年3月12日、写真:AP/アフロ)

飛行機内で毒殺されかけた

 2018年、ナワリヌイはプーチンに対抗してロシア大統領選挙に立候補したが、立候補は無効とされた。SNSに発表した「一緒に詐欺師を捕まえよう」という一連の汚職追放の動画は国民の間で大人気だった。しかしテレビは出禁、新聞はかれのニュースを載せず、最初の頃は盛り上がっていた集会も禁止された。事務所は警官に荒らされ、ナワリヌイは有害な緑色の液体を顔に浴びせられ、拘束された。

 2020年8月20日、決定的な事件が起きた。その事件がこのドキュメンタリー映画の中心でもある。