(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
※本稿は『脱定年幻想』(勢古浩爾著、MdN新書)より一部抜粋し、大幅に加筆したものです。
EQ(心の知能指数)の世界的権威とされる心理学者のトラヴィス・ブラッドベリーは、「精神的に強い人が『絶対にしない』10のこと」を挙げている。
すでに「精神的に強い人」だから、これらのことを「しない」でいられるというのだが、逆にこれらの「10のこと」を「しない」ように心がけるなら、だれでも精神的に強い人間になれる、と受け取ってよさそうである。
ブラッドベリーはこういっている。「精神的な強さは、全く予期していないときに起きたことによって試されるものだ。その人の精神的なタフさは、困難なときに何をするかではなく、何をしないかというところに明確に示される。精神的に強い人が決してしない10のことを学べば、あなたも自分の精神力を高めることができるはずだ」(「Forbes JAPAN」2017.2.11)
おもしろいのは、強くなるためには「何をしないか」ということが重要視されていることである。たいていの場合、「何々をせよ」という無理難題が10個並んでいそうだが、反対なのである。ブラッドベリーは、「困難なとき」に弱い人たちがやってしまいがちな「10のこと」を絶対にしないように、といっているのである。
それはこういうものだ。1「失敗にこだわらない」、2「ネガティブな人とは付き合わない」、3「自分を疑わない」、4「謝罪を求めない」、5「自分を哀れまない」、6「恨まない」、7「誰の悪影響も受けない」、8「人のことに介入しない」、9「怠けない」、そして10「悲観しない」である。
4の「謝罪を求めない」については説明が必要だろう。ブラッドベリーは「強い精神力の持ち主は、非を認めずに謝らない人のことも恨まずに許す。(略)過去の恨み事や感情に『寄生』する憎しみや怒りは、今の幸せや喜びを台無しにする」といっている。
そのこともそうだが、なんでもすぐ人に謝罪を要求するのは、弱さの逆の現れだという気がする。謝罪で気が晴れることはない。なされる謝罪がほんとうか嘘かもわからない。報道はすぐに「犯人からの謝罪はまだない」とかいいたがるが、そんなわけのわからないものを求めてもしかたがない。