ラファエル・ナダル。2021 BNLイタリア国際 男子シングルス決勝で。対戦相手はノバク・ジョコビッチ(写真:ロイター/アフロ)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 5月30日からテニスの全仏オープンが始まっている。久しぶりにフェデラー、ナダル、ジョコビッチのビッグ3が揃うことでも注目を集めている。

 3人が揃いはしたが、かれらはもはや若くはなく(フェデラー39歳、ナダル34歳、ジョコビッチ34歳)、故障や不調で全盛時の絶対的な強さは見られない。けっこう取りこぼしが多いのだ。そういう意味では、男子テニス界で世代交代がはじまりつつあるといっていいかもしれない。

 しかしかれらを脅かしているのは、錦織圭、ラオニッチ、チリッチ、ワウリンカ、ゴファンらの中堅ではない。かれらはビッグ3の凋落とともに、不発のまま終わりそうだ。

 台頭してきたのは、錦織らよりあとの世代、すなわちズベレフ(24歳)、メドベージェフ(25歳)、チチパス(22歳)の次期ビッグ3である。これにティーム(27歳)、ルブリョフ(23歳)を加えてビッグ5としてもいい。かれらにはまだ、ビッグ3ほどの威光もカリスマ性もない。しかし「地位が人つくる」というのがほんとうなら、それは時間の問題かもしれない。

ときには“威嚇”で攻撃してくる

 テニスは一対一の非接触型スポーツである。対戦相手から肉体的な打撃を受けることはない。乱闘もない。しかし卓球やバドミントンとちがい、言葉や態度による威嚇でメンタルを痛めつけようとすることがないわけでない。

 それに負けるか否かは自分次第だ。2019年のジュネーブオープンで、西岡良仁はラトビアのガルビスに、第1セット後、トイレットブレークをとったことで試合中ねちねちと嫌味をいわれつづけ、試合を落とした。西岡はツイッターで「とても不愉快な試合でした」と書いた。

今回の全仏オープンでプレーする西岡良仁(2021年5月31日、写真:AP/アフロ)

 錦織圭は2007年、17歳でプロに転向し、早くも翌年のデルレイビーチ選手権で初優勝を果たした。その直後の試合で錦織は、当時世界6位(元世界1位)で、26歳のアンディ・ロディックとあたった。ネット際の打ち合いになったとき、錦織のボールがロディックのボディを狙ったというので、ロディックが激高、錦織を怒鳴りつけるという異様な事態がおき、錦織は委縮して負けた。