キエフの地下鉄駅に避難したウクライナの人々(2022年2月24日、写真:ロイター/アフロ)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 ロシアがウクライナへ軍事侵攻をした。まさかとは思ったが、やっぱりプーチンはやったかとも思った。21世紀なんかなんの意味もない。

 河野太郎衆院議員が「少し前までこの世の中で、“武力で他国を侵略する”なんてことが現実にヨーロッパで起きると思っていた人は少ないと思います。しかし、現実にはこういうことが起きるし、東アジアでも起きかねない」(「河野太郎元防衛大臣にロシアのウクライナ侵攻について生直撃!」2022年2月28日、ytv、https://www.ytv.co.jp/ten/corner/other/a6of22qaybnqc8r8.html)といったが、そのとおりである。多くの専門家も、実際にやるとは思わなかった、といった。

昨日の朝は満員の乗客でいっぱいだったのに

 世の中はなんでも起こりうる。衝撃なのは、日常という穏やかな現実が、邪悪な意思によって簡単に破壊されるという別の現実に直面することである。人間はその前に無力であり、体験は圧倒的すぎて意味がわからない。ひとりのウクライナ女性の言葉が印象的だった。2月24日にロシアの侵略が始まった翌朝、キエフの地下鉄の構内で、彼女がこういったのである。「昨日の朝、ここは満員の乗客でいっぱいだったのに、いまは市民が避難している。これが現実だとは信じられない」と。

2022年2月24日、写真:AP/アフロ

 こういう現実の恐ろしさは起こりうる。わたしは身をもって体験したわけではないが、体感感覚として最も衝撃的だったのは、2011年3月11日の東日本大震災だった。テレビを通してではあったが、こういう地獄絵のような現実が生じるのだ、と思った。わたしの体験は架空のものだったが、実際にその現実を体験した無数の人がいて、その人たちが感じた恐怖は計り知れない。

 今度のウクライナ侵略は、それに次ぐ衝撃だった。だが、衝撃の性格はまったく異なる。それはあくまでも人為的破壊であり、信じられないことに、それがプーチン大統領というひとりの意思によってもたらされたということだ。プーチンのなにがこのような愚行をさせたのかは知らないが、避けようと思えば、避けられた事態である。

 こういうことが起こるなら、やはり中国の台湾侵攻や尖閣侵攻もないわけではないな、と思った。在大阪中国総領事がウクライナ問題に関して「強い人にけんかを売るな」とアホな発言したが、中国政府は「弱い者いじめはしない」と訂正した。しかしこの訂正の言葉は到底信じられない。弱い者いじめばかりしているからだ。よく考えてみれば、ウクライナと台湾や尖閣とでは問題の性格がまったく異なる。だからといって、台湾有事、尖閣有事がないとはいえないが。