彼女の手書きの紙には「戦争をやめて。プロパガンダを信じないで。あなたはだまされている」と書かれていた。

 わたしは、彼女は何年も刑務所に入れられるだろうと思った。ところが意外なことに、翌日、モスクワの裁判所は、オフシャンニコワに3万ルーブル(約5万5000円)の罰金を科しただけで釈放したのである。釈放後、フランスのマクロン大統領が亡命受け入れの用意があると表明したが、彼女はロシアにとどまった。しかし4月11日、ドイツのメディアに記者として採用され、ドイツに渡った。

 しかしこれで終わりではなかった。

 娘の親権問題で元夫が訴訟を起こしたことから、彼女は7月にロシアに帰国した。そこでまたクレムリンの近くで、たったひとりで「プーチンは殺人者だ」などと書いた紙を掲げ、逮捕されたのである。なんともすごい女性だ。

 また罰金刑をいい渡されたが、その後、新たに自宅軟禁下に置かれる決定がなされた。しかしオフシャンニコワはその前に、11歳の娘を連れてロシアを脱出したのである。

 2023年2月10日、彼女はパリで記者会見をし、フランスに亡命したことを明らかにしたした。密出国については、足首のGPSをペンチで破壊し、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」の支援を受けて7台の車を乗り継ぎ、4時間歩いて国境を超えたという。もちろん脱出ルートは明らかにされていない。

反旗を翻す女性たち

 こういう女性もいる。今年の1月、SNSにロシア批判のコメントを書き込んだ罪で、足にGPSをつけられ自宅軟禁されていた女子大生オレシャ・クリブツォワ(20)が、3月11日ロシアを脱出し、16日にリトアニアに到着した。ロシアのGPSの「追跡装置は頻繁に誤作動」するらしく、当局はまだ彼女の「脱出方法」がわかっていないという。

 クリブツォワが自宅軟禁されたのは大学の同級生の密告によるものらしい。彼女は「私の大学の場合は無関心の人が一番多いです。二番目に多いのはウクライナ侵攻の支持者で、戦争反対派は残念ながら三番目です」といっている。

 プーチンがいまだに自信をもっているのも、これらの無関心層と侵攻支持層が大半を占めているからである。ほんとうに反対している人間は、すでに国外に脱出しているのだ。クリブツォワは「当局に証言する教師もいますし、勉強は順調だったのに内容の悪い内申を当局に提出した大学幹部の人もいます。彼らのことは馬鹿な告げ口野郎だと思っています」という。