ジョージアで「スパイ法案」に反対するデモ=5月13日(写真:ロイター/アフロ)
  • 黒海に面した旧ソ連構成国ジョージアで5月14日、いわゆる「スパイ法案」が採択された。
  • ロシアでは同様の法律が政権に批判的な民主派勢力の弾圧に使われてきた経緯がある。
  • スパイ法案の背後にはロシアと関係の深い大富豪の大物政治家の影があるとされる。悲願の欧州連合(EU)加盟が遠ざかり、ロシア帝国の一部になりかねないと懸念する声もある。(JBpress)

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 ジョージア議会は5月14日、いわゆる「スパイ法案」を採択した。この「外国の代理人(エージェント)」法案は、資金の20%以上を海外から受けるメディアや市民団体などに対して「外国勢力の利益を追求している団体」として、登録を義務付けるものだ。

 政府はこの法案が、外国勢力による影響に透明性を持たせるために不可欠だと説明している。一方、米国や欧州など西側諸国は、2012年にロシアで導入された同様の法律が、政権に批判的な勢力を弾圧する目的で使用されてきたとの懸念を表明している。

 この数日前までスウェーデンで開催されていた、欧州最大で毎年恒例の国別対抗音楽祭において、ジョージアは「愛をもって世界の対立を鎮める」ことをテーマとした歌で注目を集めた。しかし、この法案をめぐる同国内での対立は、鎮まるどころか大規模な騒乱を引き起こしている。

 4月の中旬ごろから法案に反対する市民によって続いてきた大規模な抗議活動だが、5月11日には首都トビリシに、20万人もの人が集結したとも伝えられている。同国がソ連から独立を果たした1991年以来、最大規模の抗議デモであるという。

 平和的な抗議活動に対し、機動隊は催涙ガスや閃光弾などを用い、武力で対応した。11日以前のデモでも当局がゴム弾を使用したとの情報もあり、相当数の負傷者や逮捕者も出ている模様だ。

 ある野党議員はX上で5日、4月末に抗議活動中に治安当局に襲われる若者を助けようとしたところ自身も襲われ、「政権を批判しすぎだ」「殺して後で頭を打ったことにすれば良い」などと発言されたと明かしている。この議員の右目は痣(あざ)になり、鼻が曲がってもいる。

 14日の議会では法案採択に反対する議員らと賛成した与党議員たちとの間につかみ合いや殴り合いなどの乱闘騒動も起き、一時騒然とした場内がカメラに捉えられている*1

*1Georgia: Politicians fight in parliament as bill dubbed ‘The Russian law’ approved amid mass protests(INDEPENDENT)