(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年5月9日付)
暗殺事件の背後に誰がいるかを探ろうとする時、マフィアは「クイボノ(誰が得するのか)」という問いを立てたとされる。
イスラム組織ハマスが昨年、イスラエルの民間人1200人を虐殺したこととウラジーミル・プーチンとの間に何らかの関係があることを示す証拠はない。
だが、ロシアはこの事件で最大級の利益を得ている。
この結論にたどり着くには、「クイマロ(誰が損するのか)」と問うだけでいい。
地政学的に最も損をしているのは米国のジョー・バイデンだ。イスラエル軍がラファに入るにつれて、その損失は大きくなる一方だ。
運命のいたずらか、ハマスが蛮行を働いたのは10月7日、プーチンの誕生日だった。
この日以降、モスクワには地政学的不安定性という贈り物が配達されている。そのおかげでプーチンはバイデンの「リベラルな国際秩序」は中身のない砲弾でしかないと描写しやすくなった。
片やバイデンは、もし国際刑事裁判所(ICC)がイスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフやほかの大臣を告発した場合には、徹底的にイスラエルを支援するとの姿勢を明確にしている。
プーチンについては対照的に、ウクライナで戦争犯罪を働いた容疑でICCが告発するのを支持している。
プーチンとネタニヤフの関係が一変
皮肉なことに、この10月7日までプーチンとネタニヤフは互いに敬服し合うような関係にあった。
権力を握り続けるためなら何でもやる強権的な指導者像にお互いのなかに認め合い、米国のリベラル派や、空想的な社会改良を目指す民主主義者全般を軽蔑していた。
こうした敵意の共有はまだ続いている。
しかし、2022年のウクライナ侵攻以来、昨年10月7日以降は特に、ロシアはイスラエル離れに傾いており、そのイスラエルの主要な敵であるイランと手を組んでいる。
イランはロシアに、ウクライナを攻撃できるドローンを大量供給している。片やロシアは、イランとイスラエルには公平に接している「ふり」をしようと長年気を遣ってきたものの、ここにきてそれを完全に断念した。
また、イスラエル攻撃の3週間後にはハマスの上級幹部の代表団をモスクワに迎え入れた。
不吉なことに、プーチンはあからさまな反ユダヤ主義にも傾斜している。
つい最近までは、ロシアの指導者としては珍しくユダヤ人をスケープゴートにするのを避けてきたが、今ではウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーはユダヤ人だという事実に日常的に言及している。
奇怪なことに、ゼレンスキーはナチ国家を率いていると決めつけながら、これをやっている。