(文:熊谷徹)
ドイツのゲアハルト・シュレーダー元首相は4月7日、80歳の誕生日を迎えた。ロシアのロビイストになったシュレーダー氏は、古巣の社会民主党(SPD)で村八分にされ、多くのドイツ国民に嫌われ、いまやプーチン露大統領からも見放されたことが窺える。しかし、いまだに「政商」としての活動は継続中だ。
ドイツの公共放送・北ドイツ放送協会(NDR)は4月8日、『引退した? ゲアハルト・シュレーダーと歩く(Ausser Dienst? Unterwegs mit Gerhard Schröder)』という45分のドキュメンタリー番組を放映した。
NDRのルーカス・シュトラトマン記者は数カ月にわたり、シュレーダー氏を密着取材した。同氏のハノーバーの事務所で長時間インタビューしただけではなく、ハンブルクでの東西ドイツ統一記念式典や、居酒屋での友人たちとの会合、教会でのミサから、中国への出張にも同行した。中国出張は、あるドイツ企業のために行ったものだ。韓国人の若い妻とゴルフを楽しむシュレーダー氏は、年齢を感じさせない。ロシア・ウクライナ戦争勃発後、シュレーダー氏がメディアにこれだけ長時間の取材を許したのは初めてだ。
ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は4月6日付紙面で、シュレーダー氏を「ドイツの歴代の首相の中で、最も大きく転落した人物」と評した。その理由は、彼が首相辞任後ロシアのロビイストになったからだ。彼はロシアのウクライナ侵攻を批判しているが、ウラジーミル・プーチン大統領については非難していない。
彼はSPDの幹部たちを「みじめな人々」とか「小僧」と呼び、執行部とは絶縁状態にある。SPDの公式ウェブサイトの「偉大な社民党員」のリストの中には、ヘルムート・シュミットやヴィリー・ブラントなどSPDの首相・大統領経験者の写真と名前が並んでいるが、シュレーダー氏の名前はない。シュトラトマン記者の「さびしいと思うことがあるか」という質問に対し、シュレーダー氏は「全然さびしくない。私は子どもの頃から、他人と違う道を歩むことに慣れているんだ」と答えた。
プーチンとは刎頸の友の間柄
彼は現職時代からプーチン大統領と親交を重ねた。刎頸の友と言うべき間柄だった。シュレーダー氏は、1998年から2005年まで首相を務めた後、ロシアとドイツを直接結ぶ天然ガス海底パイプライン・ノルドストリーム1(NS1)の運営企業の監査役会長に就任した。NS1の運営企業は、ロシアの国営企業ガスプロムの子会社である。
シュレーダー氏は、首相だった2005年に、ロシアからドイツへ天然ガスを直接送るNS1の建設プロジェクトをスタートさせた。プロジェクト合意調印式には、シュレーダー首相(当時)とプーチン大統領が出席した。
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