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メガファーマが巨額の利益を独占する時代は終わり、創薬の主体はバイオベンチャーへと移っている(Jasen Wright/shutterstock.com)メガファーマが巨額の利益を独占する時代は終わり、創薬の主体はバイオベンチャーへと移っている(Jasen Wright/shutterstock.com

(文:上昌広)

ゲノム医学や情報工学などの進展で世界の医薬品開発は一変した。いま存在感を増すのは、CAR-T療法、遺伝子治療、細胞治療など個別化医療向けの創薬を手掛けるバイオベンチャーだが、彼らは市場の伸びしろが小さく非関税障壁も多い日本を素通りする。海外で使われている薬が日本で手に入らない「ドラッグ・ラグ」解消には規制緩和が不可避だが、その実現には後発医薬品にまで個別包装を求めるような、合理性を欠いた私たちの意識を変えなければならない。

 後発医薬品の欠品が続いている。咳止めや解熱剤の不足が顕在化して1年以上が経つ。クリニックで診察していると、毎日のように調剤薬局から「カロナールの500mg錠は欠品中なので、200mg錠2つで代用していいですか」のような問い合わせの電話がかかってくる。

 私は平成5(1993)年に医学部を卒業し、内科医となった。バブル経済が崩壊していたとはいえ、日本は一流国家だった。医師が必要と判断した薬は、ほぼ処方することができた。先輩医師からは「患者さんの命が最優先だ。医師は金銭のことなど考える必要はない」と指導された。将来、風邪薬が足りなくなるなど想像もしていなかった。

 なぜ、こんなことになったのか。私は「日本人が12歳」だからだと思う。自らが世界の常識とかけ離れたことをやっていても、気づかない。そのために、日本の社会システムが不安定になっても、一向に改めようとしない。

 外資系製薬企業に勤務する知人は、「日本の後発医薬品はオーバースペックだ」という。「海外では後発医薬品は、サプリメントのように瓶に入れてまとめて売られるのが普通で、一錠ずつ個別に包装し、表裏に薬の名前を印刷しているなどあり得ない」。

 そうだ。こんなことに海外の企業は付き合わない。このオーバースペックが、外資系企業の参入障壁として国内企業を守ってきた。

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