製薬企業が営利企業である以上、利益を追求するのは当然だ。新薬が当初の予想以上に売れたら薬価を下げるようでは、外資系製薬企業は日本市場を後回しにする。これこそ、我が国のドラッグ・ラグの真相だ。
存在感増すバイオベンチャーが日本素通りをする理由
政府はドラッグ・ラグ解消に懸命だ。だが、様々な対策を講じてきたにもかかわらず、効果を上げているとは言い難い。東京大学薬学系研究科の小野俊介准教授の研究チームの報告によれば、2008〜2020年に日米で763の医薬品が承認されたが、米国では、審査対象のうち86%が承認されていたのに対し、日本では61%に過ぎなかったという。その差25%は、1999年〜2007年の28%と変わらない。
厚労省は様々な規制を廃止し、医薬品医療機器総合機構(PMDA)での審査時間も短くなった。それなのに、なぜ、ドラッグ・ラグは改善しないのか。それは、この間に世界の医薬品開発の仕組みが変わってしまったのに、日本が対応できていないからだ。
2022年、米食品医薬品局(FDA)が承認した医薬品のうち、67%はベンチャー企業が開発しているし、世界の製薬企業間の契約(買収や導出)の57%がベンチャー同士で行われている。そして、ベンチャーが開発した医薬品の約7割をベンチャー自身が販売している。
なぜ、こんなことになったのか。それは、ゲノム医学や情報工学などの研究が進み、世界の医薬品開発を取り囲む環境が一変したからだ。かつて、降圧剤や高脂血症治療薬がブロックバスター(大型医薬品)として巨額の利益をメガファーマにもたらした時代は終わり、創薬の主体はバイオベンチャーによるCAR-T療法(悪性腫瘍に対する遺伝子免疫療法)、遺伝子治療、細胞治療などの個別化医療へと移った。
癌や希少疾患、先天疾患などを対象としているため、承認のハードルは低く、大規模な臨床試験を求められないため、ベンチャーでも開発できる。臨床試験の結果は一流医学誌に掲載されるため、降圧剤や高脂血症治療薬で必要だった大規模な販促活動は要しない。有効な薬なら、患者は放っておいてもやってくる。もはや、メガファーマに頼る必要はないというわけだ。
この構造的変化こそが、日本のドラッグ・ラグの本質的な理由だ。米国のバイオベンチャーには、市場の伸びがあまり期待できず、言語障壁や様々な非関税障壁がある日本まで構っている余裕はない。
第1相臨床試験の規制緩和は評価できるが……
もちろん、厚労省も無策ではない。非関税障壁の解消などに努力を続けている。
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