従来、日本をグローバルな第3相試験に組み入れるためには、国内での独自の第1相臨床試験が求められた。これが、米国のバイオベンチャーにとって大きな障壁となっていた。ところが、昨年末、この規制が緩和され、日本での第1相臨床試験を必ずしも求めないようになった。これで、一気に日本での医薬品開発のハードルが下がった。
今後、米国のバイオベンチャーの「代理店」として、日本企業と契約し、臨床開発を推し進めてくれる人物や企業の需要が高まるはずだ。成長率が低いとは言え、日本の市場は大きいし、薬事承認されれば、ほぼ全て保険償還され、医師が自由に処方できる。このあたり米国とは違う。この規制緩和は、厚労省で薬事行政を司る薬系技官の大きな功績だと思う。規制緩和には、様々な抵抗勢力がいただろうが、うまく調整したのだろう。
ただ、役人任せでは、日本のドラッグ・ラグは改善しない。国民が「12歳」のままでは、有効な規制緩和が続けられないからだ。コロナワクチンにおける国産信仰など、根拠のない風説が罷りとおれば、科学的には合理的でない規制を求める勢力が勢いづく。ドラッグ・ラグにまつわるこのような勢力とは、新薬開発力がない医薬品メーカーだ。海外から新薬が導入されなければ、古い薬を延々と販売できる。国産ワクチンメーカーなど、その典型だ。
繰り返すが、我々はもっと大人になるべきだ。製薬企業は、世界の資本主義市場で鎬を削っている。有効な薬は世界中が欲しがるわけだから、日本が確保したければ、相応の金を払わないといけない。一方、財源には限りがある。新薬に金を払えば、他の何かを捨てざるを得ない。それは後発医薬品のオーバースペックかもしれないし、風邪薬などの保険償還かもしれない。何を優先するか決めるのは役人の仕事ではない。我々国民の理性にかかっている。
上昌広
(かみまさひろ)特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」理事長。 1968年生まれ、兵庫県出身。東京大学医学部医学科を卒業し、同大学大学院医学系研究科修了。東京都立駒込病院血液内科医員、虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員として造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事し、2016年3月まで東京大学医科学研究所特任教授を務める。内科医(専門は血液・腫瘍内科学)。2005年10月より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究している。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」の編集長も務め、積極的な情報発信を行っている。『復興は現場から動き出す 』(東洋経済新報社)、『日本の医療 崩壊を招いた構造と再生への提言 』(蕗書房 )、『日本の医療格差は9倍 医師不足の真実』(光文社新書)、『医療詐欺 「先端医療」と「新薬」は、まず疑うのが正しい』(講談社+α新書)、『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日 』(朝日新聞出版)など著書多数。
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