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1989年11月、壁が崩壊した直後のベルリン。今ではこれらの壁は跡形もない(筆者撮影)1989年11月、壁が崩壊した直後のベルリン。今ではこれらの壁は跡形もない(筆者撮影)

(文:熊谷徹)

「ドイツ統一から30年以上経った今も、旧東ドイツ人は旧西ドイツ人から軽蔑され、差別されている。旧東ドイツは、ドイツの全ての悪の根源とされている」。こう告発する一冊の本が昨年、東西ドイツ間の関係をめぐり大きな議論を巻き起こした。旧東ドイツで極右政党の人気が高い背景にも、この深い怒りがある。

 ライプチヒ大学の言語学者ディルク・オシュマン氏は、2023年に出版した『西ドイツがでっち上げた東ドイツ(Der Osten: eine westdeutsche Erfindung)』の中で旧東ドイツ人に対する差別を糾弾した。同書は強い反響を呼び、去年5月に週刊誌「シュピーゲル」のベストセラーリストで、一時ノンフィクション部門の首位に立った。

「侮蔑と辱めの30年間だった」

 オシュマン氏は、1967年に、東ドイツのゴータ(今日のテューリンゲン州)で生まれた。父親は金属加工企業で働く労働者だった。オシュマン氏は、社会主義時代には、米国のロック音楽やジーンズに憧れる多くの若者の一人だった。1986年から1992年までイエナ・フリードリヒ・シラー大学で英文学やドイツ文学を学んだ後、1992年から1年間にわたり米国バッファローのニューヨーク州立大学に留学した。

 オシュマン氏は2011年に、ライプチヒ大学のドイツ文学研究所で、現代ドイツ文学課程の教授職を得た。

 この書は、社会主義時代の東ドイツを経験した後、統一後のドイツの変化に深く失望した一市民の怒りと絶望、告発の記録である。ドイツに住む一市民である私には、心が寒くなるような本だ。

 オシュマン氏は、「統一以来我々旧東ドイツ人が経験してきたのは、旧西ドイツ人による個人的、集合的な侮蔑と辱めの30年間だった。ドイツのメディアは旧西ドイツ人によって完全に支配されており、旧東ドイツについては悪いことばかり報道するか、我々を笑いものにしている。旧東ドイツ人は過小評価されているばかりではなく、ドイツ社会から完全に締め出されている。旧東ドイツは、悪性腫瘍のように、ドイツの中の異常でみっともない悪の部分として烙印を押されている」と批判する。「旧東ドイツに派遣された役人たちは、植民地に送られてきたかのように振舞った」とまで書いている。

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