ドイツ軍のテレビ会議を盗聴した音声データを公開したロシア国営テレビRTの画面

 2024年3月1日、ロシア国営テレビRTのマルガリータ・シモニャン(Margarita Simonyan)編集長は2月19日に行われたドイツ空軍高官が参加するテレビ会議の音声記録を公表した。

 その内容はウクライナを巡り渦中に置かれている空中発射巡航ミサイル「タウルス」の供与と、その運用想定に関わるものであった。

 加えて、第三国である同盟国に関する非公開情報が含まれていた。

 このため、ロシアの盗聴に伴う軍事機密の漏洩に対して内外から非難が寄せられ、ドイツのショルツ政権に大きな衝撃を与えている。

 本稿は公開された会議内容を分析しつつ、ロシアの認知戦の実態について考察するものである。

経緯

 2024年2月19日、ドイツ空軍トップのインゴ・ゲアハルツ(Ingo Gerhartz)空軍総監を含む空軍関係者によるテレビ会議が行われた。

 参加者は、ゲアハルツ空軍総監および空軍司令部運用訓練部長(Einsätze und Übungen)のフランク・グレーフェ(Frank Gräfe)空軍准将の将官2人、並びに空軍作戦センターのウド・フェンスケ空軍中佐(Udo Fenske)および航空電子専門家のセバスチャン・フローシュテット(Sebastian Florstedt)空軍中佐の担当2人、あわせて4人だった。

 グレーフェ准将は、米駐在国防武官も経験したパイロットであり、日本で言えば、空と宇宙の防衛を担う航空総隊防衛部長に相当する要職に就いていた。

 グレーフェ准将は、2024年2月20日から23日にシンガポールで行われた航空ショーに参加するため、2月19日、シンガポールのホテルに滞在していた。

 ドイツ空軍では、米国の通信機器メーカー、シスコ・システムズのビデオ会議ソフト「Webex」を使用してテレビ会議を行っていた。

 参加者は電話やウエブブラウザーで接続できるが、通常版であればエンドツーエンド暗号化はできない。

 現在も細部は調査中であるものの、ロシア情報機関が会議内容を傍受できたのは、シンガポールから参加したグレーフェ准将がホテルのワイファイ回線から、無許可でテレビ会議に参加したためと言われている。

 テレビ会議自体は38分間行われたが、ロシアのRTが報道したテレビ会議の録音内容は約33分であった。

 その録音内容は、英国とのリング・スワップ(ドイツがタウルスを英国に渡し、英国の空中発射巡航ミサイル「ストーム・シャドウ」をウクライナに供与)を含むタウルス供与の可能性、その場合の輸送方法・輸送所要時間、タウルス運用時の飛行高度、運用のための準備時間、ウクライナ軍の訓練オプションと期間、ウクライナの戦闘機「スホーイ」へのタウルス搭載、タウルス運用計画、ロシアの弾薬庫やクリミア大橋などの可能性のある目標、アウト・ソーシングまでが包含されていた。