- スウェーデン議会は原子力発電の拡大に向けた法改正を可決した。この結果、稼働中の原子炉に対する規制が撤廃されたほか、既存の原子力発電所以外の場所に原子炉を新設できるようになった。
- スウェーデンが脱・脱原発に踏み切ったのは左派政権から右派連立政権への政権交代がきっかけだが、原発に中立か前向きなスタンスの国はEUにも少なくない。
- ガス発電への転換で構造的に発電コストが上昇しているドイツの例もあり、少なくとも欧州では脱原発はメガトレンドではなくなっている。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
スウェーデン議会は2023年11月29日、原子力発電の拡大に向けた法改正を可決した。これはもともと、スウェーデン政府が今年1月に提案していたものであるが、この法改正によって、稼働中の原子炉の数を10基に制限する規則が撤廃されたほか、既存の原子力発電所以外の場所にも原子炉を新設できるようになった。
スウェーデンは1980年の国民投票で、原発の将来的な廃止を決定していた。しかし2022年10月に就任したウルフ・クリステション首相ら右派連立政権は、脱炭素化の推進の観点から脱原発路線の転換を表明。原発の拡大を推進し、新設に当たり信用保証を提供するほか、認可手続きの迅速化などに向けた法改正を行うと述べていた。
スウェーデンには現在、フォルスマルク、オスカーシャム、リングハルスの3カ所に原発があり、稼働中の原子炉は計12基のうち6基にとどまる。政府は2035年までに大型原子炉を少なくとも2基新設し、2045年までに新たに原子炉10基を稼働させることを目指している。このうち一部は小型モジュール炉(SMR)になる可能性がある。
ここでスウェーデンの電源構成の推移を確認すると、1990年時点では原子力と水力で発電のほとんどを賄っていた。スカンジナビア半島に属するスウェーデンは水資源が豊富であるため、水力は非常に安定した電源である。
加えて、近年は風力やバイオマスなどが新たな電源として普及しているが、現政権は再び原子力に活路を見出している。
【図表1 スウェーデンの電源構成】
スウェーデン政府は原発回帰の主な理由として脱炭素化の推進を掲げているが、エネルギー安全保障環境の改善も原発回帰の大きな理由となっている。