第三国で石油製品に精製されるロシア産原油は増えている。写真はロシアの港近くに停泊する原油タンカー(写真:ロイター/アフロ)
  • 2023年に入ってインド製石油製品の輸入を増やしているEUだが、インドはロシア産原油の輸入を増やしており、結果的にロシア産原油が石油製品としてEUに流入している。
  • ロシア産原油の「裏口流入」と認識しているEUはインドに対してロシア産原油を精製した石油製品の輸出をやめるよう呼び掛けているが、原油に色がついていない以上、その取引を止めることはできない。
  • こうした迂回ルートで外貨を稼ぐロシアだが、国際価格から割り引かれた価格で第三国に原油を販売しており、戦争継続のために身を削っている状況は変わらない。

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 2023年に入って、欧州連合(EU)がインド製の石油製品の輸入を増やしている。欧州連合統計局(ユーロスタット)によると、EUは2023年1-9月期までに、インドから前年同期比168%増となる769万トンの石油製品を輸入した(図表1)。近年の輸入水準と比較しても、2023年の輸入水準は飛びぬけていることが分かる。

【図表1 EUによるインドの石油製品輸入量(年初来累計値)】

(出所)ユーロスタット

 そのインドは、石油製品の元となる原油をロシアから積極的に輸入していることで知られる。インド商工省より同国の輸入統計を確認すると、ロシアがウクライナに軍事侵攻した2022年2月以降、インドはロシア産原油の輸入量を急増させており、直近2023年9月時点では総輸入量の4割弱を占めるに至っている(図表2)。

【図表2 インドの原油輸入量の国別内訳】

(注)3カ月後方移動平均 (出所)インド商工省

 EUは対ロ制裁の一環として、2023年2月にロシア産石油製品の輸入を禁止している。一部、クロアチアが輸入する減圧軽油は2023年まで、ブルガリアが海上輸送で輸入する石油製品は2024年まで例外的にロシア産が容認されるが、EU全体として見れば、ロシア産石油製品の輸入量は激減している(図表3)。

【図表3 EUの石油製品輸入量に占めるインド産石油製品の割合】

(注)3カ月後方移動平均値 (出所)ユーロスタット

 EUは急増しているインド産石油製品の輸入について、ロシア産石油製品をインド経由で輸入する「裏口流入」と認識しており、EUのジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)は2023年5月、英紙ファイナンシャルタイムズとの取材で、インドがロシア産原油を精製した石油製品を輸出しないように呼び掛けた。

 とはいえ、カネと同様、原油に色はついていないため、EUに輸出されるインド製石油製品のうち、いったいどれだけがロシア産原油であるかは厳密には不明である。いずれにせよ、インドはロシア産原油を精製してEUに転売しており、それが巡り巡ってロシアの外貨収入の確保につながっていることをEUは懸念している。