反米左派の与党連合候補であるマッサ候補(写真:ロイター/アフロ)
  • アルゼンチン大統領選では、反米左派の与党連合候補であるマッサ候補と通貨ペソの放棄を訴える急進右派のミレイ候補の決選投票になる。
  • 反米左派の歴代政権は国民の支持を得るためにバラマキを繰り返し、国民の不平不満をそらすために反米を扇動してきた。
  • 敵国の通貨を法定通貨に採用するミレイ候補の「公式なドル化」で通貨と物価は確実に安定する。国民はどちらを選ぶだろうか。

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 10月22日、アルゼンチンで国政選挙(大統領選と国政選)が行われた。開票率98%段階では、反米左派の与党連合候補であるセルヒオ・マッサ候補が36%強の得票率となり、首位に踊り出た(図表1)。予備選の得票率では首位だった急進右派のハビエル・ミレイ候補はおよそ30%と2位にとどまったが、その差はわずかである。

 アルゼンチンの選挙制度の仕組みでは、首位の候補が45%以上の得票率を得るか、40%を超えて2位を10%ポイント以上離す必要があり、それに達しない場合、上位2名の候補による決選投票になる。現状の得票率に鑑みれば、マッサ候補とミレイ候補の上位2名による決選投票が11月19日に行われる予定だ。

【図表1 アルゼンチン大統領選の結果】

(注)候補名の下の括弧は所属する政党連合の名 (出所)アルゼンチン選管
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 マッサ候補は、現職のアルベルト・フェルナンデス大統領の下で経済相を務める政治家。ペロニズム(アルゼンチン特有の反米左派主義)であり、キルヒネリズム(ネストル・キルチネル元大統領以来の大衆迎合主義)の正統な後継者である。フェルナンデス大統領が不人気だったため、与党の反米左派ペロン党によって擁立された経緯がある。

 他方でハビエル・ミレイ候補は、自らが率いるリバタリアン(自由至上主義)政党「自由前進」の党首である。オーストリア学派に影響を受けたエコノミストでもあり、今回の大統領選への出馬にあたっては、中銀制度を廃止して法定通貨に米ドルを採用すべき(つまり「公式なドル化」政策を採るべき)という大胆な主張を展開している。

 ミレイ候補の得票率は30%と8月に実施された予備選の結果とほとんど変わらない一方で、マッサ候補は得票率を15%ポイント近く高めている。決選投票のスイングプレーヤーとなるのは、中道右派の政党連合である「変革のため共に」(パトリシア・ブルリッチ候補)の支持者だろう。彼らの多くの支持を得れば、ミレイ候補の勝利が見えてくる。

通貨ペソの放棄を訴える急進右派のミレイ候補(写真:ロイター/アフロ)