- フランスはEV購入者に対する補助金を、生産から流通、登録に至るまでに生じる温室効果ガスの排出量に応じて決めるように制度を変更した。
- フランスで生産する自動車ほど補助金が多くなる仕組みで、中国製の廉価なEVの排除と、フランス製EVの優遇を目的とした産業保護策である。
- イタリアも同様の優遇策を導入しようとしており、市場統合を目指しているEUのEV市場が分断しかねない。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
脱炭素化に野心を燃やす欧州連合(EU)は、電気自動車(EV)の普及をその重要な戦術手段に位置付けている。同時にEUは、EVの普及を脱炭素化の観点のみならず、技術覇権や産業保護、安全保障といった様々な戦略目標の手段としても捉えているため、EUではEVの普及が「自己目的化」しつつある。
そして、EVの普及を巡ってEUで様々な摩擦が生じ始めた。
EUは域内市場でのEVの普及に関して、域内製EVの普及を重視しており、対外的には保護主義の立場を鮮明にする。一方で、EUは域内市場においては、平等な条件の下での競争を重視する。
ところが、そのEUの中で自国の産業保護を図る国が出てきたのだ。その代表的な存在が、フランスだ。
これまでフランスでは、どのEVを購入する場合でも、カーユーザーに対して一律の補助金を給付してきた。しかし10月10日より、フランスはEVのカーユーザーに対して給付される購入補助金の額を、生産から流通、登録に至るまでに生じる温室効果ガスの排出量に応じて決めるように制度を変更した。
新たな仕組みに基づけば、温室効果ガスの排出量が少なければ少ないEVほどユーザーは多額の補助金を得る。つまりフランスで生産されたEVを購入するほうが、カーユーザーは手厚い補助金を得ることができるわけだ。
これは実質的に、中国製の廉価なEVの排除と、フランス製EVの優遇を目的とした産業保護策である。
この制度の見直しは、フランス自動車工業会(PFA)から発案された。フランス政府に対して、業界団体が自国の自動車産業の保護を公然と働きかけたことになる。
産業に対する国家介入を是とするフランスの伝統的な経済観があるとはいえ、ここまで露骨に官民が一体化して産業保護を図ろうとする姿勢には驚きを禁じ得ない。
それにイタリアも、こうしたフランス発の露骨な産業保護のトレンドに合流しようとしている。