- コロナ禍で明らかになったように、科学者など専門家の話を一般的な人に分かりやすく伝えるのは想像以上に難しい。
- こうしたサイエンスコミュニケーションの分野で、生成AIの有効性が明らかになりつつある。
- 反ワクチンや闇の政府、ウクライナ戦争の有無など、様々な陰謀論が渦巻いているが、社会を蝕む陰謀論にどう対処すればいいのだろうか。
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
パンデミックで露呈した科学コミュニケーションの難しさ
突然だが、ワクチン、特に今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で注目を浴びた「mRNAワクチン」が機能する仕組みについて、皆さんはどこまで理解されているだろうか?
いきなり上から目線で始めてしまったが、かく言う筆者もよく分かっていない。「ワクチンを接種すると体内に抗体(ウイルスと戦ってくれるヒーローのような存在?)ができて、病気になりにくくなるんだよなぁ。『mRNAワクチン』というのは、新しい手法で作られたワクチンってことでしょ?」という程度の理解だ。
こんな説明で終わってはまずいので、厚生労働省のサイトから公的な説明を引用しておこう。
【mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチン】
これらのワクチンでは、ウイルスを構成するタンパク質の遺伝情報を投与します。その遺伝情報をもとに、体内でウイルスのタンパク質を作り、そのタンパク質に対する抗体が作られることで免疫を獲得します。現在、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質に対するmRNAワクチンが国内外で承認を受けており、日本でも接種されています。
以上が厚生労働省による解説だ。とりあえず抗体が作られることは確かなようだが、「体内でウイルスのタンパク質を作って、そこから抗体を作る」というのは、分かるような分からないような説明だろう。
もちろんきちんと理解できないのは、筆者の勉強不足にも原因がある。しかし理解しやすくする努力も、説明する側に求められるのではないだろうか。
それは特に、特定の知識を大勢の人々に理解してもらうことが、社会全体にとって極めて重要な場合に言える。
たとえば、いま引き合いに出したmRNAワクチンについては、いわゆる「陰謀論」がネット上を中心に出回っており、「遺伝子を操作して人間を改造するのが本当の目的だ!」などという荒唐無稽な意見まで飛び出している。
それを「理解しない方が悪い」と放置していては、ワクチンの接種率が下がり、パンデミック対策効果が期待されていたほど出なくなる恐れもある。また、知識を理解した人・理解しなかった人の分断を招き、より深刻な対立を煽りかねない。
こうした科学的知識(特にmRNAワクチンのように新しい知識や、複雑で理解するのが困難な知識)を、科学者や専門分野のジャーナリストたちが、一般の人々に分かりやすく伝える活動のことを「科学コミュニケーション(サイエンスコミュニケーション)」と呼ぶようになっている。
たとえば、今回のパンデミックの最中には、テレビ各局が専門家を集めて新型コロナウイルスやワクチンの特集番組を放送していたが、それも科学コミュニケーションのひとつと言えるだろう。
しかし前述のような、新型コロナウイルスやワクチンをめぐる陰謀論が蔓延していることを考えると、パンデミックに関する科学コミュニケーションが成功したとは言いづらい。
実際に、科学コミュニケーションの難しさについては以前から指摘されており、それに関する専門家を育てたり、科学者に対する関連教育(一般人に向けた情報発信のテクニックを教える等)を行ったりすることの必要性が叫ばれている。
そこにいま、新しいアイデアが登場している。言うまでもなく、最近注目の生成AIを活用するという方法だ。それでは、どのように活用するのだろうか。