なんとなく疲れている。それも、身体ではなく頭が。先行きが不透明で予測が難しいこの時代、そんな状態に陥っている人も多いのではないだろうか。
頭が疲れているとき、私たちの脳では何が起こっているのだろうか。何をすれば、疲労から回復することができるのだろうか。そして、この時代だからこそ必要な「頭の良さ」とはどのようなものなのか──。「『頭がいい』とはどういうことか-脳科学から考える」(筑摩書房)を上梓した毛内拡氏(もうない・ひろむ、お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 助教)に話を聞いた。
計算能力やIQは「知能」に過ぎない
──今回の「『頭がいい』とはどういうことか」という書籍で、一番伝えたいことはどのようなことでしょうか。
毛内拡氏(以下、毛内):「頭がいい」と言うと、計算が早いだとか、記憶力がいい、難解な問題を瞬時に解くなど、さまざまなイメージがあると思います。
ほかにも、IQのように数値化できる能力が高いことも「頭がいい」ことの太鼓判のように感じられるかもしれません。
ただ、こういったものは「知能」だと、私は考えています。今は、まさにAI時代です。知能では、もはや人はAIにはかないません。大切なのは数値化できない能力です。
だからこそ「知能」ではない、人間が持つ素晴らしい能力に着目する必要があります。それは「答えがないことに対して答えを出そうとする営み」だと私は思います。それこそが「知性」です。
昨今では、さまざまな業界で非認知能力の重要性が周知されつつあります。非認知能力は、自己肯定感や忍耐力、コミュニケーション能力など、感情や心にかかわる能力で数値化することは困難です。
そのような数値化することのできない「頭の良さ」とはどういうことなのか。それを脳科学の視点から考えてみよう、というのがこの本のコンセプトです。
この本を読んでも頭が良くなるわけではないということは、最初にご理解いただければと思います。
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──そもそも、脳はどのようなものなのでしょうか。
毛内:私は、細胞や脳内物質という細かい観点から脳科学の研究をしています。そうしてわかったことは、脳も、心臓や腎臓、肝臓といった臓器の中の一つであるということです。
臓器はそれぞれ役割を担っています。その中でも、脳が担っているのは「予測をつくり出す」役割です。
もちろん、学習をする、記憶をするということも脳の大切な能力ですが、予測をつくり出すことが、脳の最も重要な働きだと言われています。
──脳の能力の中でも、なぜ「予測をつくり出す」能力が重要とされているのでしょうか。