ハキリアリの行進(写真:Science Photo Library/アフロ)

 アリはいつも忙しそうだ。忙しすぎて、アタマがこっつんこする様子は、童謡でも歌われている。でも、おそらくアリ同士のアタマがぶつかることはないだろう。なぜなら、彼女ら(働きアリは基本的にメスである)は、きちんとコミュニケーションをとり、統制を保って動いているからだ。

 アリがコミュニケーションをとるといっても、ピンとこない人も多いかもしれないが、一部のアリはぺちゃくちゃおしゃべりをしながら、自分に与えられた仕事をこなしているらしい。「アリがおしゃべりをする」という表現も、また違和感があるかもしれない。

 アリはどのようにしてコミュニケーションをとっているのか、アリのコミュニケーション研究の最終目標は何なのか──。『働かないアリ 過労死するアリ ~ヒト社会が幸せになるヒント~』を上梓した村上貴弘氏(岡山理科大学理学部動物学科 教授)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──アリの中でも、特にハキリアリを含むキノコアリを研究対象にしていると聞きました。なぜキノコアリに着目したのでしょうか。

村上貴弘氏(以下、村上):僕は生粋の昆虫好きです。昆虫少年が昆虫青年になり、今では昆虫中年になりました。

 昆虫少年時代は、飽きずに昆虫の本や図鑑を眺めていました。その中で、植物の葉っぱを切り取って巣に持ち帰り、菌を植え付けてキノコを育てるハキリアリに出会いました。アリが、農業をしているんです。人間以外で農業をする生物がいるなんて驚きでした。

 そんなわけで、昆虫少年や昆虫マニアの間では、ハキリアリはアイドル的な存在です。あまり一般的ではありませんが(笑)。その例に漏れず、少年時代の僕も図鑑に載っているハキリアリの写真にうっとりと見とれていました。

 初めてハキリアリを実際に目で見たのは、大学院生のときのことです。中米のパナマで、キノコを育てるアリの中でも祖先的な特徴を残しているアリ「ハナビロキノコアリ」に出会いました。100個体程度の小さなコロニーをつくるキノコアリです。

「それ、研究してみたら?」と指導教官だった北海道大学の東正剛先生(現・名誉教授)に言われて、研究を始めました。そうしたら、想像以上に面白くてのめり込んでいった、という流れです。

──2012年からハキリアリの音声コミュニケーションの研究をしているそうですが、研究を始めたきっかけについて教えてください。