日本は高校で文系と理系に進路が分かれる(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)日本は高校で文系と理系に進路が分かれる(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 自分は理系だから歴史のことはよくわからない。文系の自分が最新のテクノロジーを理解できるはずがない──。そう思い込んでいないだろうか。

 昨今では、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を総合的に学ぶSTEM教育に、Arts(芸術・教養)を加えたSTERM教育を文部科学省が推進している。また、複数の学問にまたがったテーマを研究する学際的研究にも注目が集まりつつある。

 その背景として、社会と科学技術がより密接となったことがある。単独の学術分野では解決が困難な社会課題があふれており、分野横断的な知識と創造的かつ独創的な発想こそがその解決につながる、と考えられているのだ。

 生物学者で、起業家でもある高橋祥子氏(株式会社ジーンクエスト 取締役ファウンダー/TAZ Inc. 代表取締役)は、理系、文系を分ける現在の教育に異を唱えている。理系・文系分けをするデメリットとは何か、今後、求められる教育はどのようなものか──。高橋氏に、話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──政府の教育未来創造会議やこども未来戦略会議に有識者として参加し、「文系・理系を分けることはおかしいのではないか」という提言をしていると聞きました。なぜそのような考えに至ったのでしょうか。

高橋祥子氏(以下、高橋):教育未来創造会議では、日本の研究開発や科学技術の国際競争力の相対的な低下が、大きな懸念事項として取り上げられました。

 また、先進国の中で唯一日本はSTEM系人材の割合が減少傾向にあります。

 気候変動や世界的な食料危機、少子高齢化といった、今後さらに深刻化していくであろう社会問題の解決には、科学技術が必要不可欠です。それに携われる、対応できる人材が少ないというところが、今の日本の危うい状況です。

 そのような状況を打開するためには、大規模な人材育成改革、教育改革が求められます。その改革案の一つとして、従来のような高校で文系と理系を分ける人材育成方法を見直すべきではないかと私は考えています。

 人それぞれだとは思いますが、現在のような教育方法では、大学で理系に進学する場合はいわゆる文系の基礎知識を学ぶ機会がほとんどありません。文系の大学に進学する場合も、理系の基礎的な知識を得ることなく大学に進学し、社会に出ることになります。

 社会に出て、さまざまな意思決定にかかわる立場となったとき、文系の知識のみ、理系の知識のみでは、正しい判断をすることは困難です。そういった意味で、せめて高校では文系理系を分けずに、さまざまな教養に触れる機会が必要ではないかと提言しました。

赤ちゃんを連れてこども未来戦略会議に参加した高橋祥子氏(写真:共同通信社)赤ちゃんを連れてこども未来戦略会議に参加した高橋祥子氏(写真:共同通信社)

──教育未来創造会議の他の有識者や政府関係者は、高橋さんの提言に対して、どのような反応を示したのでしょうか。

高橋:大学では、文理融合が進みつつあります。「総合知」の重要性も理解されるようになりました。したがって、高校での文系理系分けをやめるということに対して、反対意見はあまりなかったと記憶しています。

 ただ、何をどのように進めていくのか、という点については、まだ議論の余地があります。具体的な方向性はまだ決まっていません。

──高橋さんは、どのような方向で進めていくのがよいと思いますか。