2040年には、584万人超が認知症に――。今月、厚生労働省の研究班がまとめたそんな推計が公表された。高齢者6.7人に1人、およそ15%にあたるという。身近な人が認知症になった場合、どんなコミュニケーションを心がければよいのか。長年「認知症の人の心の中」を研究してきた大阪大学の佐藤眞一・名誉教授は、ついつい発してしまう言葉に気を配ることが重要だと説く。後編の今回は、認知症高齢者と接する家族が抱えがちな悩みを、佐藤氏がQ&A形式で解説する。(JBpress)
(*)本稿は『認知症心理学の専門家が教える 認知症の人にラクに伝わる言いかえフレーズ』(佐藤眞一・島影真奈美著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋・再編集したものです。
#前編 認知症初期症状の人につい言ってしまう「覚えてないの?」「何度も聞いたから!」どう言いかえれば伝わるのか?
#中編 “同じものを何度も買ってくる”…認知症高齢者についつい言ってしまうNGワード・覚えておきたい対処法
Q1 認知症の親にイライラしてしまう
「これまで当たり前にできていたことができなくなる親を見ていると、イライラしてしまう自分がいます。親子なのに、認知症だとわかっているのに、イライラしてしまうのは親不孝でしょうか」
認知症になった親を見ていると、「昔はもっとしっかりしていたのに」、「こんな言葉は言わなかったのに」など、若くてしっかりしていて、子どものことを真剣に考えてくれた頃を思い出してしまうものです。
楽しく、和気あいあいと暮らしていた頃のよい思い出と、認知症になってすっかり変わってしまった今の親の言動を比べてイライラしてしまうのは、実の子どもだからこそのことなのでしょう。
イライラしてしまうのは、親なのだからと懸命に介護しようとすればするほど、理想とはかけ離れたことしかできない自分に向かっている感情でもあります。
どうしてもイライラを抑えることができないときは、いったんその場から離れて、興奮している自分の感情を落ち着かせて、「認知症なのだから、わからないことや、できないことがある」ということを改めて思い起こすことが大事です。
そして、冷静になって、自分は親のどのような行動に対してイライラしてしまうのか、なぜイライラしてしまうのか、を考えてみてください。通常は、自分の想定している通りに行動してくれない、振舞ってくれない、ということが原因である場合が多いようです。
認知症の親御さんとあなたの考えのどこがすれ違っているのか、すれ違っているのはなぜなのか、を考えてください。
例えば、お風呂に入ってもらおうとして、そのことを伝えても、嫌がって入ってくれないという場合、なぜお風呂に入ってくれないのか、お風呂を嫌がるのか、を考えてみてください。そもそもお風呂に入るということの意味がわからないのかもしれませんし、お風呂に入ってもどうすればよいのかがわからずに戸惑ったという経験が記憶に残っているからかもしれません。
「お風呂に入って」と声をかけられる前にゆったりとした気持ちでいたのに、別のことをしろと言われて、せっかくの落ち着いていた気持ちを邪魔されたと感じたからなのかもしれません。
イライラさせられる行動の前後を、冷静になって観察する習慣をつけると、親の不可解な行動の意味が、なんとなくわかってくるものです。認知症の人の言動にも、必ずその人なりのなんらかの理由があるのです。そのことを考えるようにすると、徐々にイライラする回数も減ってくると思います。