ワクチンの感染予防効果に過度な期待は持てない(写真:AP/アフロ)

(篠原 拓也:ニッセイ基礎研究所主席研究員)

ワクチン接種歴別の新規陽性者数データに疑義

 コロナ禍は第6波が過ぎて改善傾向が続いてきた。経済活動の再開も進み、朝の通勤・通学はコロナ以前の姿に戻ってきた。「Go To トラベル」に代わる政府の旅行割引支援事業「県民割」は7月14日宿泊分までとし、7月前半より「全国を対象とした観光需要喚起策」として、補助額を引き上げて実施されることも発表されている。ただ、6月下旬に入って全国の新規感染者数は前週同曜日比で増加に転じており、今後の感染拡大の動向は、なお予断を許さない状況となっている。

 そんななか、感染拡大防止策のカギとされてきたワクチン接種について、気になるデータが明らかになった。「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の事務局が作成した資料で、ワクチン接種歴別の新規陽性者数のデータだ。

 それによると、年代によっては、2回接種したほうが未接種よりも新規感染率が高いという。一体どういうことなのか? このデータをもとに考えてみたい。

 まず、示されたデータの算出法を簡単に見ておこう。データは接種歴について、「未接種」、「2回目接種(3回目接種済みを除く)」、「3回目接種済み」、「接種歴不明」の4つの区分を設けている。そして、主に10歳ごとの年齢区分ごとに「未接種」~「3回目接種済み」の10万人あたりの新規陽性者数を表示している。

 このうち、新規陽性者数は、HER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)に登録されているデータをワクチン接種歴に応じて集計したものとされている。

 実は、ワクチン接種歴が未記入の場合、以前は「未接種」に分類されていた。それが、5月11日以降は「接種歴不明」に分類するよう厚生労働省が分類方法を変更したため、物議を醸した。

 コロナ対策を検討する政府関係者や専門家は、これまでに何度かこのデータを用いてワクチンの説明をしてきた。そこで、今回の分類方法の変更を受けて、ワクチン接種を推進する立場の厚生労働省が、「接種歴不明」を「未接種」に分類して、「未接種」の新規陽性者の数を多く見せようとしていたのではないか、との声がSNS上などであがった。

 厚生労働省は6月7日の大臣会見で、記者からの質問に対し「このデータは元々、ブレイクスルー感染(ワクチン接種後の感染)の人数を調べるために集計して発表するのが目的であり、何か他意があるということではない」と説明している。

 一方、10万人あたりの新規陽性者数の母数となる、ワクチン接種歴に応じた年齢区分ごとの人口は、VRS(ワクチン接種記録システム)に報告されているデータにもとづいて算出されている。未接種者数は、各年齢区分の人口総計から接種済みの人数を引き算して算出されている。こうして割り出されたワクチン接種歴別の10万人あたりの新規陽性者数が、毎週アドバイザリーボードの事務局資料の一部として提示されている。