写真:アフロ

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 衝撃的なネット記事の見出しが目に飛び込んできた。「誰も助けてくれなかった、小学5年で始まった親の介護…『48歳で認知症になった母』」というものだ(読売新聞オンライン、https://www.yomiuri.co.jp/medical/20221208-OYT8T50079/)。

 これを見たときにまず思ったのは、「え? 誰も助けてくれなかったということは、母子家庭の小学5年生が、若くして認知症になった母親をたった一人で介護しつづけたのか?」ということだった。

 とりあえず記事を読まないまま急いで保存し、アマゾンで検索してみると、原作・美齊津康弘(みさいづやすひろ)、漫画・吉田美紀子の『48歳で認知症になった母』(2022年、KADOKAWA)という漫画であることがわかり、早速発注した。

認知症への理解がまだだった時代の物語

 本を読んでわかったことは、当時小学5年だった美齊津さんはけっして「一人」ではなかったということだ。水産会社を経営する父親と、高校生の兄がいたのである。市内に嫁いでいた姉もいたし、叔母さんもいた。かれが一人でなくてよかったと、わたしはホッとした。

 しかしそうであっても、父親は早朝から夜遅くまで働き、兄は母親が認知症になってからはほとんど部屋から出てこなくなったので、母親と長い時間一緒にいるのはやはり康弘少年しかいなかったのである。

 それに急いで付け加えると、この家族の物語は1980年代という背景をもっている。美齊津さんは現在50歳で、漫画の原作は当時を振り返って語られたものである。

 しかしいずれにせよ、漫画は感動的だった。美齊津さんが体験したことはかれ自身にしかわからないことであり、当時の社会ではまだ認知症に対しても今日のような理解が広まっていなかったから、より過酷だったはずである。母親であれ父親であれ、どちらかが認知症になることは、家族にとっては大変な重圧である。