写真:アフロ

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 今も昔も庶民の願いは、主として家族の健康・幸せと金運向上のふたつであろう。もちろん他にも良縁祈願や合格祈願、必勝祈願や成功祈願などがあるだろうが、それもまずは前者のふたつの願いが満たされることが先だろう。健康の願いは地味だが、実際には切実である。願い事のなかで最重要だといっていい。

 人はその有効性をほとんど(あるいは、まったく)信じていないにもかかわらず、それでも願い事をしてしまう。というのも、人生が自分の努力や意志だけではどうにもならず、人知を超えた運に左右されるものだと考えているからである。

 とくに健康や幸せについてはそうである。金運向上など、もろに金「運」といっているくらいである。それなら願い事も、おなじく人知を超えた神仏に「頼みますよ」とお願いするしか手がないのは道理だからである。

 ということは、人間の意志が原因で始まった出来事の収拾は、神仏に祈っても筋違いということになる。たとえばロシアのウクライナ侵略に対して「早く戦争が終わりますように」とか「平和になりますように」と祈ることは、もちろん気持ちはわかるが、無駄である。神仏の知ったこっちゃないからである。

 人間が始めたことは、人間が終わらせなければならない。

年間で6万人が亡くなる「脳梗塞」

 こういうことをいうつもりではなかった。

 中年以降、健康の問題は若い頃に比べて、より切実になる。50代、60代から認知症ははじまり、だれが発症するかもわからないのである。予防のしようもない。

 気をつけたい病気に脳梗塞がある。脳梗塞*1は、脳の血管に血の塊(血栓)が詰まって起こる病気である。これはいったん起きると「ほぼ完治する人は約20%で、73%の方は何らかの後遺症を残し、死亡する人は7%」(https://www.apoplexy.jp/apoplexy/type/)とされる。年間の死亡者は約6万人という報告もある*2

*1 脳卒中は、脳梗塞、脳出血(脳内で血管が破れて出血)、くも膜下出血(くも膜の下に出血)の総称。以下の前兆、症状、対処法は基本的に脳卒中全般に当てはまる。

*2 「脳梗塞による死亡数は年間6万2,122人 平成29年(2017) 「人口動態統計(確定数)の概況」より」(https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/2019/009998.php

 近いところでは三遊亭円楽氏が2022年1月に脳梗塞になり、9月に肺炎で亡くなった。肺炎は脳梗塞の後遺症として多いといわれる。この病に罹患した有名人は他に、長嶋茂雄、西城秀樹、加山雄三、本郷功次郎、田中角栄、イビチャ・オシム、石原慎太郎らが思い出される。知る人ぞ知る人で、多田富雄(免疫学者)という人もそうだった。